第55話 〈error #2〉
「あとコレ、映画製作で思い出したんだけど」
広げてあった紙束をひょいと拾い上げる。表紙には、部員の写真と第十一回文芸部とある。それは文芸部員が書いた自作短編集であった。先輩はあるページを開くと、俺達が見やすいようにひっくり返して机に置いた。
題名・映画製作没案
変わった題名だな。没案? 語感だけで、つけたんだろうか。読んでみない事には分からない。
「コレ、面白かったから読んでみなよ。それで、読み終わったら感想聞かせてくれないかい、……………… 瀬戸ないか―い♪ フフフ。貸したげるからさ。あと最後」
机にばら撒かれた冊子はこれで最後で、机上には新聞が残されていた。日付からして、六年前の切り抜きだ。夕刊である。
「なんすか。これ」
【屋上で衰弱死。地震でドアが歪んだか】
月曜早朝、恵那西高等学校の屋上で女生徒が衰弱死しているのを、点検に来た用務員が発見した。屋上に閉じ込められたことで、雨に打たれ続け、低体温症に陥ったのが直接の死因とみられている。なお、この開き戸は地震が発生した直後に取り換えられたもので、地震の揺れとは別に原因があった、といった見解も存在するようだ。当局は引き続き、事件事故両方の側面から調査を進めるとのことである。
この記事と文化祭に出す予定の映画、妙なシンクロニシティを感じざるを得ない。それも出来すぎてるくらいに。我が身を乗り出して、食い入るように読んだ。
「まるで、俺達がやってる自作映画みたいな話ですね」
「いやっは、それは偶然じゃないかな、知らないけど。自分はこの短編に似てるよねって話をしたかったんだ。この不思議を、この夏、誰かと共有したくてねぇ」
この短編とは、映画製作没案のことか。じゃあ確認してみよう。試しに冊子をパラパラめくると、目に入る単語がところどころ午前演じたものと一致した。まさか、元ネタなんじゃなかろうか。もう一度、次は精読しようと最初の頁に戻る。
「————————————!?」
あれ、いやいや、そんなまさか。
「……………… ちょっとクーラで冷えてきたぜぇ。外出ていいかぁ?」
安田の声が遠くに聞こえた。聴覚よりも視覚が優先されてるのだろう。やがて触覚も後回しにされ、足元が揺れる幻覚を引き起こした。
「おーい、紙川ぁ」
うるさい、俺はいま集中してんだ。追加で邪魔されないよう、顎を撫でて考えてますアピール。見間違えかもしれない。落ち着け、俺。
タイトル・映画製作没案
著 者・
ここまで問題なし、しかし、
校 正・
いや、同姓なだけだろ。さらなる確認のため、表に印刷された白黒の集合写真を見る。そこには、たった二人の部員と顧問の先生が収められていた。いやこの場合、一人の部員と、顧問の先生が正しい。何故なら、二人の内一人は、写真だからだ。写真、そう写真。
椅子に座ってる生徒は坂田さん、ご丁寧に顔の真横に名前が降ってある。彼女の膝に立てられている写真、いや遺影には俺達が探している、まさにその人が微笑んでいた。やはりこちらにも、ご丁寧に名前が降ってあるのだが 、詩丘紗友とのことであった。
「すいません。用事があるんで、ちょっと」
「うん? えーー、ゆっくりしてってよー」
「先輩、寒くないっスかぁ。俺、体調悪いっす」
「えーー、安田君も帰るの。じゃ、また来てね」
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