第六幕 詩丘さん捜索
第50話 昼休み、終わり
[推理大会・二戦目]
「まず友田君、だったね? いいかな」
「おうよ、今は友田だが」
山崎はさらにいいか、と前置きした。良いっつうの。
「友田君は嘉陽さん、つまり仏さんを説明するとき、固く目は閉ざされていた、と説明した。だがちょっと、引っかかるんだ、ええ。だって、仏さんの目は自然に開いてしまうからねえ。つまり、あの時の嘉陽さんは、まだ生きていたんですな。少なくとも、目を閉じる反応を残すくらいのレベルで意識はあった。にも関わらず、君は嘉陽さんを屋上へ置き去りにしたんだ。天気予報で、これから土砂降りと知りつつね。殺意があったかは別として、あんさん、あなたは嘉陽さんを殺したんだよ」
「つまり、未必の故意ですね」
未必の故意? 高峰さんが、そうまとめる。まだ言いたいことがあるらしく、理知的に結ばれた口を再びほどいた。
「認容説でしたっけ?」
もうついていけない。山崎もそうらしい。ウンともスンとも言わない。
「でもです山崎警部さん。瞼が開く開かないは死体の置かれた環境に左右されますから。なので、閉じてても不思議ではないんです。殺虫成分の作用が嘉陽さんの瞼を閉じたままにさせたのかもです。もう一つ、秋は気温が低いので、開かなかった原因になったのかもです。それにそれに、雨の前で湿度が高かったとか」
ここで一句。
山崎予想、三行半に、破れたり(紙川涼)
山崎は、うっかり高峰スイッチを押してしまったらしい。俺が安田にそうするように、学級長にもプライドがあるのかもな。しかし、そのお陰で進展があった。推理を一つ潰せたのだ。
一旦、
俺たちに言えることだが、たかが文化祭に出す作品で、いや失礼だと思うが、そこまで厳密に検証するのは間違っているんじゃないか。ここで考慮した方がいいのは、たかが一端の西高生である詩丘さんの推理小説制作能力ではないだろうか。どこまで作りこまれてるかは未知数であり、行き過ぎた考察が作者の意図の遥か上空を通過することも、無きにしも非ずだ。
そして学級長に圧倒されていた山崎が、これより帰還する。
「ははぁ、それはそうですな。こりゃ、失敬」
そこで粘らないか。山崎と安田はあんまり勝負事に拘らないよな。そこが良いとこだが、欠点でもある。打ち負かし甲斐がないじゃないか。
「まぁよぉ、それもこれも、詩丘さんに聞けば一発だしなぁ」
安田が野暮で、元も子もないことをぬかしたところで、今日の議論はお開きとなった。それを言われちゃ、お終いだ。
「じゃあだが、午後から調査にあたれ。詩丘さんに答えを聞いて来てくれ。詩丘さんが見つからなかったら、校舎を見て回れ。あの事件の鍵なのかもしれん。そこら辺、照らし合わせつつ、みたいなな。俺や七咲くん高峰くんは、午後から部活なんで。お前ら暇だろう?」
山崎に暇人認定されてしまった。—————— まあ実際、暇だ。
「うち、劇あるんで―」
演劇部ね、はいはい。じゃあ仕方ない。
「七咲さん! 頑張ってくだせぃ、ファイト―!」
「いっぱーつ!」
元気良すぎだろ。お前等は、コンビを組め。
「私は午後からビームライフル部の練習があるんで、お暇させて頂きます」
「ビームライフル部ですか。じゃあ、高峰さん。頑張ってください」
「はい」
しかし、ビームライフル部とは意外だなぁ、……………… 別に本人の自由だが。にしても、お暇しますとか今日日聞かねぇな、上品だなぁ。なんて思考を巡らせつつ、……………… そういうとこだぞ、どっかの不良少女も見習って欲しい、と切に願った。七咲、お前のことだ。
「おいっす、俺、ア部、あるんでぇ。わりぃな紙川! お前一人で回ってくれ。んじゃ、おいとま~」
安田は苦い顔を作りながら、両手を胸の前ですり合わせる蠅のジェスチャーをした。アブ、ってくだらねえよ。恥ずかしさで悪寒がする。
「お前、そもそも帰宅部じゃん」
ということで午後から、安田と俺コンビで詩丘さんを探す旅に出る。人探しか。これは俗にいう、ミステリーっぽさ、なのじゃないだろうか。探偵は足で稼ぐ、だっけ? まぁ、俺は探偵じゃないんだけど、でも、
ワクワクしないことも、なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます