第24話 準備、完了


「やまざき君、やまざき君。いったん、リハ、ここまで通してみようよー!」


 七咲は床に置いてあった台本を拾い上げ、山崎に開いてみせた。


「ははー、姉貴。承知いたしました。ではまず、前半を通しでやって見せましょう」


 山崎はそんな態度にも関わらず、七咲に台本を正面に保持してもらっている。なんか、歪んだ関係築いてんな。見開かれた冊子と床のバッテンを交互に確認するたび、顎の肉が弾力を見せた。安田が提案する。


「山崎ぃ、でもよぉ、それもいいんだが、今日は初回だし、感覚をつかむ練習回にしようぜぇ。いきなりはキツイだろう」

「うん? それを、リハーサルって言うんだろがい」


 山崎の冷静なツッコミが入る。


「んぁ? まぁいいか、じゃあ、やるか」

「いや、お前。ほんとに山崎の説明、理解できたのかよ」

「つまりアレだろ、わかってら、うん?」

「お前の頭がアレだ」

「っんだとぉ~、てめぇ」


 安田は、俺の頬を両側からつまむ。俺は、安田の頬をつまむように圧搾した。みるみる内に赤くなっていく。


「お二人とも、喧嘩しないでください」


 ……………… 学級長に怒られてしまった。それはそうなのだけど、それはそうな、まっとうなお叱りなのだけど、俺は安田を離すことはしなかった。


「ごめんよ、安田」

「気にすんじゃねぇ。良いってことよ」


 安田は、フグみたいにすぼまった口でもごもごいう。見ての通り喧嘩じゃないんだが、お堅いぜ。


「うぉっし、じゃあ、指示すんぞー。おいそこ、いつまでやってんだ」

 

 俺たちはお互いを開放する。頬の外側がジンジンと痛んだ。

 山崎が指示を出す。指をさし、動線をなぞるように動かすのだ。なるほど、ああやって動けばいいんだな。流石、映画研。分かりやすいぜ。その感動を口に、


「なかなか、様になってんな」

「本業だし、そりゃあそうでっせ。お前も俺ん部活、入んないか?」

「すまん。それはない」


 確認作業は十分くらい続き、そして、


「っと、言った感じなんだが。よし! ここまで通しだ。質問があるやつはいないかな? ……………… いない。おし、やっぞ」


 その最終確認に、


「オッケー」

 と快活に、


「おうっすぅ」

 とふざけて、


「ないです」

 真面目に、


「俺もない」

 俺も返事をする。


「それじゃあ、始めるとするか」


 そして山崎が宣言するなり、総員、さっさと持ち場に着いたのだった。

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