第19話 いざ出陣!(山崎と一緒)


[準備]



 山崎と共に二階の職員室へ向かう。映画製作に必要な学校の備品や撮影場所に数学教室を借りたいから、その申請。俺ら以外の人員は、今どうしてるかというと、与えられた仕事をこなしている。

 二人分の足音が廊下に淡々と反響した。ここまで反響するのは夏休みの校舎に、生徒が居ないからだろう。西高は部活の数こそ少ないが質は良いんでね、合宿があるらしく、午前中から夕方まで貸し切り状態である。その静けさが心地よいかと言われると、そうでもなく、むしろ普段と打って変わって違うので、和風ホラーな感触がした。


「なあ、かみさんよ。こうやって夏の校舎をボッチで歩いてるとさ、感じるもん、あるよなー」

「そうだな、生徒のいない校舎は、不気味っちゃ不気味だけどさ」

「いや、ザッ青春、って感じたんだ」

「なんだその、……………… 過ぎてしまった、おっさんみたいな感想。おっさんは、見た目だけにしろよ」

「なら今度から、見た目は止めておこう」


 ……………… 出来るのかよ。

 そうか、山崎と俺は、どうやら百八十度違うことを考えていたらしい。俺がビビりなのか、それとも山崎が能天気なのか。きっと前者、俺はビビりだ。じゃあ、ッザ青春なのか、と言われると別にそうでもない。


「横に歩いてるのが女子だったら、全面的に賛成したんだろうがよ」

「意地悪言わないでよ~、紙川ちゅぁ~ン」


 山崎は妖怪のように体をくねらせた。それは豆腐の妖怪か大入道で、ほらやっぱり、和風ホラーじゃないか。


「気色が悪い、正気に戻れ」

「そうカッカするな。こうやって歩いた場面は、数十年後ふと、セピア色で再生されんだぜい。だからよ、美しくいよう」

「美しくあるために、それを止めろよ。……………… 再生されるって、さっきのやり取りがか? じゃあ、数十年に渡る、トラウマになってんじゃねえか」

「いいや、違う。数十年もありありと思い出せる光景だ」

「ごり押ししようたって駄目だ。千歩譲ったところで、バットトリップだろ」

「そうはいうものの、やっぱり中年になったら、記憶のアルバムを開いて、こう思うのさ。あの時はマシだった、と」

「おい。なんで、今より事が悪化する前提なんだ。そうならないよう、日々努力だぜマジでな。山崎、—————— 着いたぞ」


 こちら職員室前。扉を軽く滑らせると、室内から外に向かって冷気が流れ出した。職員室内部は、コンピューター室を除くと唯一空調が設置され、四季を通し生徒の反感を買っているほど快適である。いや、春と秋はそうでもないか。

 横に貼ってあるマニュアル通り『失礼しまーす』を、二人でアンサンブルさせる。『どうぞ』と聞こえたので、内部へと入っていった。

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