第18話 高峰美麗は無口じゃない。


「これで全部でしょうか?」


 俺に一言。その通りである。


「多分な。詩丘さんから受け取ったのは、これで全部だ。あとそういや、完成だ、って言ってたから、これ以上もないんじゃないか」

「なるほど。ならラストは読者への挑戦になりますね。……………… これでもいいですが、やや後味が悪いです。それに消化不良を感じます。不完全燃焼というか」


 なんと、さっきのページパラパラで内容を把握したらしい。いわゆる速読ってのか。精読に比べると内容の理解度は劣るが、漠然と理解したい時は使えるのかもな。俺も練習しようかな。


「速読ってのですか。学級長」

「いえ、どちらかというと映像記憶です。文字を情報に置き換えるというより、文字の形を覚えるイメージなんです」

「へぇ、暗記パンみたいっすね」

「そうでもないです」


 それはそれは、全身の骨格が金属で出来てそうな能力だから、是非とも今度、電話帳で試してもらいたいね。映像記憶なんて超能力じゃないか。

 

「うーん。どうしましょうか」


 学級長はボリューム不足とか煮え切らないとか、そんなニュアンスを含んだ調子で、それとなく訊いてくる。いや、まだ読んでないから判断しかねるのだが。だからして、肯定も否定も出来なかった。

 さっき読者への挑戦って言ってたよな。—————— それは、いかなるものかと、脳みそから疑問が、液体金属のように流れ出して舌先を濡らした。うーん、あー、えっと、喉元まで来てるんだが。うん、ギブ。大人しく尋ねましょう。


「えっと、高峰さん。読者への挑戦ってのは何でしょうか」

「この場合は視聴者なんですけど」

「ははぁ」


 自作映画だもんな。読者ではなく視聴者と。そんなことはどうでもいいんだよ。俺は、そんなことを知りたかったんじゃない。


「じゃ、視聴者の挑戦ってのは」

「ミステリーの手法でして。答え合わせの章の直前で、事件を整理して受け取り手に見せるんです。それを使えば解けますよみたいな。映像作品ではあんまり聞きませんが」

「答え合わせのショー。アレか、探偵が集まって推理しあう」


 つまり推理ショーか。理解理解。


「そうですそうです、推理大会の場合もありますよね。噛ませ犬が出てくるのは、一種のお約束なんです」


 噛ませ犬か。俺は、何となく安田を思い浮かべた。それはあいつが犬、それも野良犬っぽい感じを漂わせてるからだろう。他にはスカベンジとか、モップとか、ヤスデとかそんな単語が上がって来る。


「話を戻しましょう。私、思うのですが種明かししないのは尖りすぎてるかな、って。……………… その点については、また詩丘さんと相談しておきましょう。えっと、アレ? そういえば詩丘さんはどこですか」

「詩丘さんは、図書館に用事があって、今日は来ないそうですよ」

「了解しました。そう言えばそうでしたね。私、うっかりしてました」


 なんか学級長、よくしゃべるな今日。もっと無口だと思ってたが。ミステリーとか好きなんかね、ウキウキしてるのか、そうなのか?


「次回までには、許可を取っておきますから」

「そうっすか、了解です」


 次回集まるの明後日だから十分時間はある。頑張らなくても許可取れるさ。ったく、真面目なんだから。でもいいことだ。


「つおいぃ! 紙川ぁ」

「あ? なんだよ」

「準備しようぜぃ!」


 台本をウチワにしていた安田がそう提案すると、学級長は委縮したように一歩下がった。相性悪いよ、水と油だよ、この二人。やっぱり、俺というより安田が苦手なんだろうな。一緒に行動してるから、今まで一緒くたにされてたんだ。損なこった。


「あっしが指示を執りませう。皆の衆、俺に従ってくれい!」


 山崎が喉を震わせると、


「おうよ」

 とまず、俺が答え、


「よっしゃぁ!」

「はぁーい!」

「はい」

 続けて、三者は三様に返事をしたのだった。


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