第17話 作中作登場人物紹介
「カマキリがゴキブリだと。嘘をつけ」
「いやぁ、本当だっつうの! ほら、言われてみれば、笹の葉みたいな羽とか、足のギザギザとか。でも近いつっても、んなに近くもないがなぁ」
「そうか。じゃあ今の無駄な時間は、利子付きで返せよ」
高峰さんとまた目が合う。目を反らすと嫌ってると思われそうなので、真っすぐ瞳を固定した。それはもう、瞬き一つしないくらいである。
「なんでしょうか、学級長」
「台本、見せてください」
感情を感じさせるが飽くまで事務的な声でそう言った。冷たい性格ではないのだが安田と、そして多分、俺が苦手らしい。だからか距離を感じさせる口調だった。悲しいけど、人には好き嫌いがあるから仕方がない。普段、滅茶苦茶してる俺たちが悪いのだ。
「はいよ」
「……………… はい」
台本を配給。台本の表紙には個々の名前と、その配役が乗っている。
・高峰美麗→鈴谷先生
「どうぞ」
「ありがとうございます」
台本を手に入れるなり、俺から顔を隠すように台本を広げ中身を確認し始めた。読み方が真面目だ。ただ、そう感じた。はい、次。
・安田孝→吉田
「よしだー」
「うーす」
いいや、お前の名前は、やすだだね。吉田こと安田は台本を扇子みたいにパタパタさせる。暑いもんな、ってじゃない。学級長を見習え。ええい次だ、次。
・七咲美咲→綾瀬
「七咲ぃ」
「はぁーい」
そんなキャラじゃないだろ。普段は濁点付きの『あ』だろうが。まあいい、指摘するなんて自殺行為だ。これ以上、テンポを悪くしてもいいことはないし。次、———— 次は監督だった。
「山崎」
「うむ、確かに受け取った」
そう言って一枚ずつ、ビシッビシッと台本を捲っていく。
「普通に取れよ」
「っし、奴らにバレちまうだろ」
「ダンディーなやつめ」
山崎に手渡した台本は、俺達のそれより数倍厚かった。シナリオやプロット、演出の指示、設定が書き込まれてるに違いない。その厚さたるや、『監督は楽そうでいいよな』とか、迂闊に言わせない風格があった。
「一つは予備か?」
「紙川爺さんやー、それはあんたのじゃろー」
「おう、そうじゃった、そおじゃった、七咲婆さんや」
「んだとぉー!」
ビュンと足が剛正少なく、にもかかわらず、しなりながら飛んでくる。それはそれはもう脛が死んだのだった。
そうか、俺の台本だったか。どうやら熱で思考が鈍っているようで、まったく、どうも夏は苦手だ。暑い。水でも被ったらすっきりするのに。
—————— では、台本を読もう。名前の下に矢印、その先に友田慎太郎とある。友田慎太郎、名前からどんな輩か毛ほども想像できないが、友達にはなれそうだ。詩丘さんは、山崎や安田七咲と違って、俺の性格は直接知ってるし、予想だが俺によく似た人間に仕上がっているのだろう。その方が演じやすいんで、そうあれと願うね。でも、あの詩丘さんならその逆を行きそうだ。
しかし逆か。自分は主観でしか知らないから、その反対を知ることは出来ないが、周りを見てみれば、アホッ子学級長や、冷静沈着な安田、ヤンキーの七咲がそれにあたる。おっと最後のは本性か。じゃあ、普段ヤンキーだけど素は大人しい七咲かな。
こうして並べてみると見てみたい気もする。
個人的にはアホっ子学級長が一番見てみたい。その彼女を見ると、相変わらず冊子を顔の前でパラパラさせていた。もしかして風送ってるのかな。一見すると無邪気な動作に見えたが、そうでもなかったようで、口を開く。
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