第13話 スーパーバカな会話


「っち、なんだよぉ。つれねぇーー。つまりなんだ、詩丘さんとは表面だけのカンケーなんだろぅ。……………… なあ、俺達ダチだよなぁ?」


 表面だけの関係ってなんだよ。そろそろ、〆ないと駄目なのかな。


「なんの確認だ。仮にどんな関係を詩丘さんと結ぼうと、お前には関係ない」

「……………… ということはやっぱり」

「お前、今日から他人に格下げな」

「あぁ~、やっぱりそうだったかぁ~」

「そのキモイノリなんだよ。はいはいはい、さっきは無視して悪かった。これで満足か? あぁ?」

「もう一声ぇ!」

「ジュースの奢り、一本ちゃらだ」


 まあいい。腕一本くらいくれてやろう。


「わかりゃ、良いってもんよ。……………… 詩丘さんっていうのかぁ。結構、可愛かったなぁ。しなやかそうな手足が顎肢がくしから曳航肢えいこうしをなぞる線と重なるぜ。ちなみにだがなぁ、顎肢ってのは、顎って付いてるがホントはちがくてだなぁ」


 俺は言葉を遮ることにした。蟲の話題は注文でない。


「確かに詩丘さんはスレンダーだが、それで百足むかでを連想したことは一度もねえよ! 一度もだ! 百足はお前だよ。百悪し、ってな。詩丘さんに謝れ」

「テステステス、詩丘さん、聞こえてますかぁ? では、小生、これより謝罪しまーす」


 中腰になって、眼を斜め上にひん剥き、ひょっとこのように口をすぼめながら、謝罪に臨もうとする。嫌な予感しかしない。おそらく予感は的中する。


「ご、めんガタスズメ」


 そう言うと、素早く頭の上で左手をトサカに見立てた。五本の指は意志を持ったかのように、めいめいが全身を波打たせている。俺は自分の理性と相談し、数ある選択肢の内、最も道徳的な台詞を決定した。


「死ね」

「死ねはねえだろぉ!」

「世のためになるんだ」

「そもそも、なぜ褒めてるのに謝らにゃいかんのだ。ムカデほど美しい生き物はいねぇよ。毒があるのが一層、蠱惑的で、ハグされたい、……………… ってよ! 山崎、覚悟! ウルァ!」

「ぐはぁ」


 通りすがりの巨大生物が声を上げ、その悲鳴は、さすがに三里まで聞こえなかったという。(出典・かわいそうな山崎)。

 安田専属の秘書がいたら、間違えなく余白にWOWと書くであろう意味不明な供述は、前を通りかかった、否、通りかかってしまった、巨漢の背中にラムアタックを決めるという、理不尽極まりない形で突然終わりを迎えた。


「いてぇな、お゛い。誰だお前! って、安田か」


 安田と知って納得する山崎。縛る前に手を離した風船な悶絶の仕方が、面白かったが、急に止まってもやっぱり面白い。痙攣するボンレスハムとは彼のこと。俺は二人が喧嘩する傍で、あきれたポーズを取っていた。


「誰だって、俺だよ」


 と安田。とてつもなくアホな会話がまさに惹起しようとしていた。馬鹿三人衆、ここに集結。安田は山崎の脇腹を小突く。


「おい、山崎。紙川に紙川に彼女が出来たらしいぜ」

「な゛ぁ~に゛ぃ~、っておま、それは確かな情報なのか!? おいおいおい、嘘だ」


 無論、嘘である。

 山崎は、ほっぺたをプルプル鳴らし、俺を睨む目は、プチトマトみたいに充血し、今にもプチっと弾けそうだった。犯罪を犯そうという強い意思が血管に現れている。いや、怖いよ。日頃、映画研究部で演出を学んでるからか、コイツの茶番はプロレベルだ。一言ひとこと。下らんことに才能を使うな。


「……………… 俺達、友達? ……………… だったよな?」


 点の数だけ震えていたと考えてくれても差し支えない。それほどまでに『怒』が振動していたのだ。友達か。山崎とはWYFN広域安田交友網で知り合った仲だっけか。

 つまり、山崎は安田経由で知り合った友達の友達、ってことだ。だから安田が休むと俺は、真面目君やダムオタクと、山崎は、山崎の友達とつるむことになる。そんな距離感。今、二人で、安田をサンドイッチする隊列を組んでるのは、そこら辺の無意識が関係してるのかもな。


「山崎、その下りさっき聞いたから。だから彼女じゃないっつうの。違う、馬鹿の安田の勘違いだ」


 両端の俺達は、示し合わせてたかのように真ん中を見ると、そこでは当人が腰に手を当て、アキンボポーズをしていた。おいおい、それ、自信持つとこじゃないぞ。


「そうか、馬鹿の安田の勘違いだったか。紙川君、こりゃ失礼」


 山崎は安田に触発されてか、そう言って、空気で帽子をクルリと取るしぐさをする。俺もなんかしようか。胸の前で適当な三角を描くアーメン。


「ところで山崎、水筒飲ませてくれないか? 熱中症気味なんだよ。口付けないからさ」

「あいよ」


 山崎は俺の口にお茶を注ぐ。すると、安田は水筒の底を抑えた。俺はたまらず噴き出して、彼は被弾することとなったのだが、それはまあ自業自得である。

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