第9話 登場人物紹介


 [消極的「主演俳優」決定戦]



「あ゛ぁ、う゛ん、よし。—————— 今日もお知らせないよなあ」


 担任の宮沢が咳をした後、そんなことを問うと、すかさず学級長が挙手をした。真っすぐに伸ばされた手のひらが、風切り音たてて、天をく。


「ん゛、高峰さんどうぞお」

「文化祭の配役を決めて置きたいのですが、お時間もらえませんか」


 といって、背後の誰かに気付いたようにグルっと皆を眺める。きっと同意を求めてるのだろう。主観なので飽くまで推測に過ぎないが。


「あ、どうぞ」


 学級長の後ろにいた春日君がボソッと答えた。偉いぞ、その勇気はいつか表彰されるべきだ。




 文化祭の方向性が決まってから四日後の帰りの会のこと、早速、司書の作哉さんに外注したプロットが完成したらしく、現時点で決めれる配役を完成させてしまおうとなった。


「では、男子二人、女子二人、誰か希望する人はいませんか」

「………………………………」


 まあ、いないわな。

 投票した彼等の大部分は他力本願の精神なわけで、ははぁ、難航しそうだ。かくいう自分もそうなのだから、あまり人のコトを言えない。皆と同じで冷めた態度を取っている。今時の学生のトレンドである。そんな気だるげの教室をチョークの冷めた音だけが進んでいく。


 カッカッカッカ。


  ・女子A

  ・女子B

  ・男子C

  ・男子D


 書き終わってしばらく、不備に気付いた書記が、男女四列の右に付け足した。書記さんって、おっちょこちょいだ。


・監督→山崎英雄


 山崎英雄。所属している部活は映画研究部。巨漢で、縦に長く横に広い。顔は猪と大仏の合いの子。性格は見た目に反して、いたって真面目。今回の件は文化祭を通して新入部員を獲得せねば、という彼の部長としての焦りが発端であった。

 彼曰く、『そもそも三人だけだったがさあ、—————— 先輩が抜けたせいで、今オレ一人だけなんだ部活がよ。このままだと同好会に格下げだ。う゛う゛、何とかせにゃならん』らしい。そうか、どうでもいいが、それに俺のクラスを巻き込むなよ。


「はぁーい!!」


 ラジオ番組の司会に『元気よく』と指示されたように、五百ジュールの明るさで返事を弾き出すのは、あの七咲だった。やはり最初に立候補したのは七咲だったか。


 カッカッカッカ


・登場人物A→七咲美咲


 七咲美咲。演劇部次期部長候補とか、まるでヤクザな肩書を持つ彼女はエンドロールかどこかに、部活の宣伝を入れようと目論んでいた。きゃつめ、その肩書から候補の二文字を消すつもりか。これだけだと味気ないので付け加えるとすれば、七咲は俺の幼馴染である。これ以上の情報が欲しいなら安田へGO。個人情報と等価交換で売ってくれるだろう。お勧めはしないが。


「はっ、なに!? じゃあ俺も。な、なぁ、原さーん! 俺もっ」



 カカカカカカカカ


 呼応するようにスピードを上げる。落ち着け、その行為、何の意味も無いぞ。


・登場人物C→安田孝


 噂をすればなんとやら。悪友が名乗りを挙げた。……………… 七咲につられる形でだ。安田、その直心じきしんな恋心は認めるが、相手を間違えたな。というのも七咲はだな 、う゛、なんか見られてる気がするから、この話はまた今度。

 えっと、この時点で三人が名乗りを挙げたが、コイツ等が特殊なだけで、後に続こうという酔狂な奴は、ケほども残っていなかった。だから読み合いの教室が、だんまり長々再開であった。

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