第6話 文化祭、展示決め投票
[秋の文化祭、投票]
と、かなり唐突だが、ここで文化祭とやらの
まず大前提、誰かが提案をしない限り行事ゴトは適当に済ます、という暗黙の了解が、西高には古くから存在する。ほら、多くの学校で自然発生して、伝統みたいに居座ってるアイツのことだ。
だから例年の祭りの規模は、全国のを平均した値に近いもので、無難なものに収まっていた。がしかし今年は違う。少々、気合が入ってるかもしれない。というのも、うちのクラスの担任、宮沢先生が授業する先々で、『ウチんクラス、今年どえらいのやっからな。やる気満々! や。覚悟しとけやお前等。絶対負けんわ』と煽ってるらしく、挑発に触発されたどこもかしこもが、打倒B組に躍起であるからだ。はっきり言う。先公、迷惑だからやめてくれ。
あとはそうだな。こっちは例年通りなんだが、西高の部活は数こそ少ないが質はいいんで、体育館で行われる中国雑技団じみた部活動勧誘は期待していい。
結局何が言いたいか。今年の文化祭は、開始前から大いに盛り上がっていた。
ここまでで勘違いしないで欲しい点は、担任の理想と事実が、まったく違っていたこと。決して、俺のクラスB組は『やる気満々!』でなかったし、そしてそれは今も変わらない。『ウチのクラス、依然やる気ナシ』。悲しいかな文面に起こせばこうなった。
そもそも映画製作に参加したのは五人、その内、積極的に名乗りを挙げたのは三人、あとの二人は本意でない。つまるところ数字が示す通り、この企画の約半分は惰性で出来ている。五人以外のクラスメイトは、二人の生贄をささげる文化祭最大の仕事を終え、ホクホク顔で離脱した。このまま秋の共同制作まで帰還しないことだろう。だから少なくとも文化祭準備期間まで、夏休みから秋の始まりにかけては、五人だけで撮影をする必要があった。おい、押しつけもいいとこだろ!
なんで、怠慢の権化みたいなクラスで映画製作が採用されたかって。
まるで地獄のような真夏日の登校から遡ること二週間前。夏休みがもうすぐという時期。俺達のクラスは5限目を使い、秋の文化祭発表決めを執り行った。すると、やはりといったところか、かの歴史ある伝統に倣って、喫茶とか、ヨーヨー釣りとか、暇で労働が少なく無害で安全な案が多数挙がったのだ。
「はーい」
「はい、どうぞ。
学級長の鋭い声。赤川ね。赤川はそうだな、あんまり話したことないが、良い奴だ。顔がまるで用意されてないように浮かばないが、とりあえず性別だけは確かで、赤川という文字を見るだけで男だと分かる。総合すると赤川は男で良い奴だ。
「写真展、どうでしょう」
「しゃしんてんじ」
……………… 顔を少し左へ傾けるか。
原さんは背が低いから、最初は背伸びして書いていたのだけれど、つま先だちで足首を痛めたらしく、背伸びするのを諦め、徐々に行を下げていったので、黒板には、右から左に傾いたリストが生成されている。やや左に傾いた
「あ゛ーい」
「どうぞ、
学級長の冷たい声。吉井はそうだな、悪い奴じゃない。赤川と仲がいい。性別は男だ。つまり吉井は赤川と仲がいい悪くない男だ。
「アンケート調査」
「あんけーとちょうさ」
どんどん、下がってるぞ。遂に一番前の席の大男の
ふと静寂が訪れる。順調だった発言の流れが止まった。
なるほど、ネタは出尽くしたと。いや、それかココが落としどころだと踏んだか。ただいまの選択肢は八つ。俺もそろそろ決めねばな。そうだな、この中だったらアンケート調査だろうか。ざわざわと探り合う声が場を埋め尽くす。言葉の断片から察するに、やはりアンケートが多いようだ。
じゃ、決まり。
「投票に移ろうと思うのですが、他に案はありませんか?」
「ありませーん」
なるほど。
それな。
「では、投票を」
「いやあ、待って下せえ。学級長、提案が」
よく知る野太い声が急ブレーキをかける。そのタイミングで待ったかける奴、生まれて初めて見たぜ。言いたいことあんなら早めに言えよな、山崎。そしてその提案こそが味噌だった。
「映画製作なんてえ、どうでしょう」
ブザービート(?)。そう、山崎が語ったその案こそ、映画製作だったのである。後々、面倒なことになると知らず、あの悪魔。死ね。でもまあ、知り合いに免じて、許してやらんでもない。
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