049
「今日は片付けしなくていいぜ。せっかく最後なんだから、早めに帰ってやりたいこと満喫しに行け。椿も待ってるだろ」
こう太一が告げたのは、紅白戦が終わった後、水を飲んでいる時だった。
僕は喜んで、その提案を受け入れた。
やりたい事はやったし出来ることは全てやったので正直、このコートにも全く未練が無いのでさっさとバッシュを脱いで体育館を跡にした。
階段を
「うわあああああ!」
ついでに背後の
僕は
まさか階段を滑って転んだか……?
椿はがばっと両腕を拡げる。もしかしたら滑った恐怖からなのか、椿の眼はきらきらしている。涙ぐんでいるかのようなその瞳を見ながら、きれいな眼だなーと思いながら、僕も腕を拡げる。
と言うか拡げざるを得ない。
受け止めなければ椿が潰れてしまう。
「ゆうとー!」
久美ががばっと包み込むように僕に飛び込んできた。どのくらいかと言うと客観的に見て片仮名の『ヒ』を鏡文字にしたぐらいの腕の上げ方、脚の上げ方で、僕の頭上から突っ込んできた。
僕に信頼を寄せすぎだろう。
しかし、僕は彼女が思っているほど頑丈な人間でもない。
まず僕の背骨がぴきぴきっと悲鳴を上げる。
その後、壊れた左膝がバキバキッと鈍い音を上げた。
「ゆうと! ゆうと! ゆうとー! ってあれ由人どうしたの? もしもーし? 白目向いてますよー」
痛みで放心状態の僕をゆさゆさと身体で揺さぶってくる。
最早右足だけで全身を支えているようなものだ。限界だっての。
「もしもーし。大丈夫ですか。応答願いまーす。もしもーし」
と、不意に。
己のハイテンションに気が付いたのか、僕の胴に
口は半開き。
右のおでこに冷や汗が一つ。
僕は、そのおでこの汗に標準を合わせるように、こつんと額を久美に乗せた。
「何か飲み物買ってくるよ」僕は額を久美の頭に乗せたまま
「何がいい?」
「カフェオレ。でもさ、話の転換に困ったからって無理しないでいいんだよ。由人、練習着のまんまで財布なんて持ってないじゃん。まずは着がえてきなよ」
「そうするわ」
僕は椿から離れ(それまでずっと密着していた)、部室へと向かった。
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