048

 思い描いていたのはこの風景。


 人生の最後に、地球の最後の思い出に、リングに向かってダンクすることだった。


 それも相手は親友の浜太一。


 これ以上に無い最高のシチュエーションだった。


 僕の突然のリングへの跳躍が予想外だったのか、太一のブロックが少し遅れたように見えた。


 太一は、空中で完全に振り切った。


 まるで時がゆっくりと流れているかのような感覚。


 片手で持ったボールを伸びきる頂点まで持ち上げて、最高の喜びを噛み締めながら、バスケットボールをリングの中心へと力の限り突き刺した。


 鉄が軋む轟音ごうおんが体育館に響く。


 ……響く?


 バスケのゴール音が響いたのだ。響くほど静寂だった。僕のプレーに唖然としていたのだろうか。


 先程の秀のときと同じようにバスケ部は勿論もちろん、バレー部もマエケンもダンス部も江原太鼓部も完全に静まり返った。


 それどころか、陸上部やサッカー部の掛け声も、校舎から聞こえてくるトロンボーンの音も、車が走る音も小鳥がさえずる声すら消えたように感じた。


 何も聞こえない。聞こえてくるのはバスケのゴールがきしむ音だけ。


 そう感じただけかもしれないけれど。


 ボールが床へと落ちていく。


 だけど何も聞こえない。


 そして、とボールが地面に落ちた乾いた音。


 ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ


 僕の着地と同時に、紅白戦終了のブザーが鳴った。

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