003

「あれっ? ゆーくんいつもみたいに自転車は?」


「うん? まあいいんだよ。僕の家はどうせ歩いても十分くらいだし」


 久美は高校まで電車で通っている。一番高校に近い水前寺駅からは自転車に乗ってやってくる。


 ちなみに、僕が住んでいるアパートは駅と高校の間に位置している。


 いつもだったら、二人で駅まで歩道用道路を自転車を押して歩いて行くのだが、今日は久美だけが自転車を押しながら、二人歩きだす。


「あ、ってことはやっぱり自転車で来たのに朝、大遅刻だったんだねー」


「大遅刻ってほどでもないでしょ。微妙だよ微妙」


「うん。登校時間三十分後、クラス内点呼が行われる時間に登校してくるのはやっぱり大遅刻だよ」


「ぬう。まあ、家出たときにすでに登校時間過ぎてたからな。いや、でもまだ数えるほどしか遅刻してないだろ。一年の頃よりまだましになった方だって」


「それは、ゆーくんが数えてないから。本当はもう数えられないくらい遅刻しちゃっているんじゃないかな? 私の記憶では」


「なるほど、僕の遅刻の回数を真に知っているのはマエケンだけか」


「もう! いつもみたいに寝坊したの?」


「いや、今回は早く起き過ぎたんだ」


「……はえ?」


「眼が覚めたらまだ七時になっていなくて、これは退屈すぎるどうしようかな。暇だな。よし後三十分寝よう、って思って、目を開けたら八時過ぎちゃってたんだ。あれはすごいね。タイムリープでも起きたのかと思った」


「それはただの二度寝」


「いや、ごめん、ちょっと話を盛りすぎた。実はちゃんと七時半ごろに意識はあったんだよ。ベッドの中でだけど。そして、体を起こそうとした。だけどどうしても体を起こすことができなかったんだ」


「ん? 足でもったの?」


「いや、そうじゃなくて。夢を見たんだ。体を起こそうと思っても、怖くて起こせない。ちょっとだけ怖い夢」


「ゆーくんよく夢見るもんね」


「うん。でも今回は特別怖い夢だった」


 正直言って今も怖い。


 朝から誰かにこの夢の話を打ち明けたかった。だが、こんな酷な話ができる相手は久美ぐらいしかいなかった。


 だから、私的な話かもしれないが、今日一日中久美と二人になりたかった。二人だけで話をしたかった。


 親友はいても、全てを話せるわけではない。


 信頼を寄せる、親愛なる相手にしか全ての話を語る勇気は持てやしない。


 もしかしたら、彼女に対しても無意識に隠し事をしているのかもしれないけれど。


 僕は夢の内容を打ち明けた。

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