撤退

魔王軍が迎えに行けと言った事に、周囲は動揺した。


「お前達!魔王軍の手の者じゃないだろうな!」

「そうだ!食糧に毒でも仕込んでいるのではないか!?」


若い将兵達が騒ぎだした。


「止めよ!それで、魔王軍は何か言っていたか?」


顔色を悪くしながら船乗りは答えた。


「いえ、魔王軍は生き残った非戦闘員の我々に、ただ迎えに行けと………」


「………そうか、魔王軍の意図はわからんが、助かったのは事実だな。皇帝陛下!撤退で宜しいでしょうか?」

「うむ、すでに本国が落とされているのでは、これが最後の物資となろう。少しでも余力がある内に撤退する!」


連合軍のトップである皇帝の指示に意見する者はなく、これを機に連合軍は撤退していくことになる。しかし、全軍を撤退するには何往復もせねばならず、時間を有した。


故に──



「殿(しんがり)はワシが務める。それと志願兵を募り、家族や恋人の居ない者を中心に殿隊を用意せよ」


!?


「皇帝陛下!?」

「将軍には言ったであろう?ここがワシの死に場所じゃとな」


将軍はお供致しますと言って、怪我人の収用を急いだ。


それからは慌ただしく状況が動いた。

連合軍の撤退に時間が掛かったが、魔王軍は嫌がらせ程度の攻撃しか仕掛けてこなかった。


「皇帝陛下、最後の定期船が到着しました。どうぞ、撤退を………」

「将軍よ、ワシはここに残る。戻っても、ただ責任を取らされて処刑されるだけじゃ。ならば、意味のある死を願うのみ!」


皇帝の強い意思を見た将軍は何も言えず、自分もお供致しますと言った。


戦いで数が減ったが、残り2万弱の兵士の内、5千もの兵士が残ると言った。これは皇帝の人徳の成せるものであった。


最後の船が大陸へ旅立つと、皇帝を先頭に最後の突撃をしようとした所、予想外なことが起こった。


パチパチッ

パチパチッ


「おめでとう!これで戦争は終わりです。最後までお疲れ様でした」


魔王シオンが起こった数名の側近を連れて現れた。


「魔王!?戦争は終わりじゃと!まだ終わっておらんぞ!」


目の前のシオンに大声で叫ぶが、シオンは首を振った。


「戦争終わりです。もう戦う意味がありません」

「なんじゃと?」


シオンはここに残った者達に、叩き潰した国々を脳内に見せた。


「………国が滅んだのは本当であったか」


流石の兵士達も祖国が滅んだと知って、士気が下がった。


「勘違いしないで下さい。私が潰したのは、国の城や貴族の屋敷です。民には被害を出していません」

「それが事実じゃとして、御主の目的はなんじゃ?」


シオンはニッコリと笑うと、本題へと入った。








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