そして─

そして、戦況は硬直したかに見えた。

しかしそれは見かけだけであり、被害は圧倒的に連合軍の方が大きかった。

戦死者は1万を超えた。傷付いたものはその5倍に達した。

魔王軍は怪我人こそ多かったが、死んでさえいなければ、エルメスやシオンが欠損部分の怪我でも治してしまうので、また戦場にでて戦うことができたのだ。魔王軍の戦死者は100にも満たない。


さらに開戦から10日が過ぎた。


「おかしい…………」


連合軍の指令部も、いよいよおかしいことに気付き始めた。


「ええ、こちらの被害は拡大しているのに、魔王軍の数が減っていない!」

「後方に隠している部隊がいて、交代させているのでしょうか?」


不安と焦りから会議とは名ばかりの言い合いが始まった。そこに、ドンッとテーブルを叩く音が響いた。


「静まれ!」


帝国の将軍が場を静めた。バースト皇帝は腕を組んで目を瞑り思案していた。


「………まずは、おかしい点を一つ一つ解明していこう」

「はい、後続の援軍が着ておりません。連絡も途絶えております」


!?


「そ、そうだ。後続が来ていない……!?」

「魔王軍に潰されたとみるべきでしょう。幸い、連絡様に中型船が何隻か残してあります。戻らせてみますか?」

「そうじゃな。2隻ほど行かせて何かあれば戻るよう伝えておくのがよいじゃろう」


次に、魔王軍の無限に沸いてくるカラクリについては、隠密行動に長けた部隊を広範囲に展開させた。数日の内には判明するだろう。


「将軍、このまま被害が拡大すれば、いつまで戦える?」


将軍は冷や汗を流しながら答えた。


「………このまま死傷者が続けば、後2週間ほどで全滅します」


将軍の言葉に他の将兵は異論を唱えた。


「バカな!連合軍の兵力は12万もあるのだぞ!一万ほど減ったがまだ魔王軍の5倍以上は兵力がある!2週間で10万もの兵が全滅する訳がない!」


大きな声で反論したが、将軍は淡々と説明した。


「戦死者は一万を超えた。これだけでも大敗と言っていい。今までにない兵力で思考が変になっているだけだ。本来はもっと早く深刻な状況だと判断するべきだったが、魔王軍が巧妙に戦況を動かして、こちらの被害を察せないようにしていたのだ」


「だからと言って2週間で全滅はないでしょう!」


将軍は首を振って言った。


「あくまでも戦死者が一万だ。怪我人はその5倍に登る!その怪我人の中で、戦える者が何人いると思う?そして、逆算して約2週間で戦える者が居なくなり、その気になった魔王軍の総攻撃で全滅する!」



将軍の言葉に将兵達は青ざめるのだった。





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