予定通り

人間達の船団は、バースト皇帝の案を採用して、速度の速い中型船で先行して港町の様子を見に行かせた。


!?


「あ、あれはなんだ!?」


マストの上の見張り台から望遠鏡を見ていた船乗りは大声で叫んだ。


「や、ヤバい!あれはヤバすぎる!すぐに引き返せ!!!!」


バハムートの姿を見た船乗りは恐慌状態に陥った。そして上から落ちてしまった。


ドンッ


「おい!大丈夫か!?」


船乗りは痛みに耐えながら必死に訴えた。


「は、早く引き返せ!!!殺される!?」


バハムートの姿を見ていない仲間達は戸惑うばかりであったが、このやり取りの間も船は港町に向かっていたのだ。


そして──


「あ、あぁぁぁ……………」


全員がバハムートの姿を見たとき、全力で反転して逃げ帰ったのであった。


先行させた船員からの報告に、指揮官クラスの者達が騒ぎだした。


「そ、そんな化物を飼っているなんて、勝てる訳がない!?」

「引き返した方が良いのでは?」


弱気な発言が続くなか、将軍は直属の配下に命じて、帝国の将兵を拘束した。


「な、何を!?」

「………我が誇り高き帝国軍人に弱卒は要らぬ!貴様達は本日限りで将官の地位を剥奪し、一般兵とする。陸に上がれば先陣を切らせてやる。喜ぶがいい」


将軍の言葉に拘束された将官達はガタガタと震えて命乞いをしたが、聞く耳持たずに連れて行かれた。


「見苦しいものを見せたな。これは人間と魔王、魔族達の総力戦である!士気を下げる発言をするものは厳罰に処するのみ。まぁ、他国の将兵達はそちらの国で対応してもらう。流石に他国の兵士は勝手に処罰できんのでな?」


バースト皇帝の強い意志を見た、会議室に集まった多国籍軍の将兵達も、気を引き締めるのであった。


そして、シオンの思惑通り人間達は数十キロ離れた岩山に囲まれた入江に向かったのだった。


「密偵の報告通り、良い場所があって良かったですね」


能天気に報告する部下に将軍もため息を付きたくなった。


「もっと周囲を警戒しろ!我々はここに誘導されたのだぞ!?」

「えっ!?」


将軍は1日で荷卸を済ませると、すぐに後続を呼びに、船を帰国させる命をだした。


「我々が今すべきことは、ここに防衛陣を築くことである!」


第1陣である3万の兵士達は周辺の安全確保と、陣地を築く為に集中した。


「どう思う?」

「罠かと思われますが、意図が読めません」


皇帝と将軍、そして他国のトップの軍人達は気味の悪い空気を感じていた。こんな近くに侵略に便利な場所が用意されていることに。


「てっきり、最初の上陸でこれ以上増えないように攻めてくると思ったのですが、動きがないのが不気味ですな」

「港町にあのような巨大な龍を用意するほど、我々の進軍に備えておったはずじゃ。しかし、ここに兵力を集める意図が読めぬな」


敵の罠であっても、すでに動き出した軍は止めることはできなかった。人間達も戦うしかないのである。軍の上層部は警戒をしつつ、陣地の構築に全力を尽くし、後続がくるのを待つのであった。





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