人間国の作戦会議
各国の首脳陣が自国にいながら会議ができる『魔鏡の間』と呼ばれるところで、前回の会議の続きのために集まっていた。
「………やられたな。まさか、魔王の目的が各国の弱体化だったとは」
「ええ、前回ではただ亜人の労働力だけが奪われると思っていたのだけれどね。まさか、ここまで亜人達が国に貢献していたとは思っても見なかったわ」
パリッテ王国のエリザ女王は扇で口元を隠しながら憂いた様に言った。
しかし、口元はにやついていた。この場で、不幸中にも、1番被害の少ない国はエリザ女王の国だったからだ。
元々、パリッテ王国は亜人を奴隷として働かせていた。しかし、大量の亜人が仕事を奪い、生活が困窮しているスラムの住人の仕事まで奪ってしまい治安が悪化していた。
今回は逆に亜人達が大量に居なくなったことで、スラムの住人に仕事が廻ってきたのだ。
こうして定期的な収入源を手に入れたことで、治安が良くなったのだ。
しかし他の国はそうはいかなかった。
「あら?オーフェン法王様?寝不足ですか?凄いクマができてますよ?」
魔術法王国では、一般的に魔術師が大半であり、日常生活の世話は奴隷の亜人がやっていた。その亜人が居なくなったことで、日常生活に支障をきたすことになった。
簡単に言うと、魔術師達はほとんどが、研究に没頭して、掃除ができない。さらに料理も出来ない。などなどで、日々の食糧さえ食べれなくなってしまったのだ。
今では研究どころではなく、日々の生活に困る有り様であった。無論、他の国から料理のできる人間や掃除のできる使用人を雇ってはいるが、まだまだ人数が足りないのである。
それは、他国も同じ有り様であり、経済や市場がガタガタになってきているのである。
「遅くなってすまない」
1番の高齢者であるバースト皇帝であったが、表情から疲労が見て取れた。
「バースト皇帝もお疲れの御様子ですわね」
「うむ、まさかここまで亜人達に頼り過ぎていたとは反省するしかあるまい。領内に魔物がでたと言って騎士団を派遣したが、まさかいつも亜人達にやらせておったとは知らなかったわい。いつの間にか騎士団は弱体化し、詳しく調べれば、録に訓練もしてなかったとは。いつもならたいした事のない魔物でも、損害が酷く、さらに指揮官が逃げ帰る始末だ………」
バースト皇帝はまだ現役時代に、前線で戦っていた勇猛果敢な騎士でもあった。
いくら亜人達を多少乱暴に扱っていたとしても、自国の騎士団が弱体化していた事実は頭の痛いことだった。
「今まではどの様な報告をされていたのですか?」
他国の首脳陣の顔付きが変わった。
まさか自国でも同じ事が!?と、焦ったのだ。
「………いつもは自分達が魔物を討伐したと報告を受けていた。それに伴う報奨と、消耗した装備の支援金を支払っていたのだが、軍部上層部が横領していた事実が判明した」
バースト皇帝は余程、虚偽の報告が赦せなかったようで、拳を強く握り震えていた。
「そ、それで軍部上層の更正をしたのですか?」
「いや、見せしめに公開処刑した。当然であろう?報奨とは自身の身の危険を省みず戦った者へ支払われるべきものだ。軍部以外での腐敗も深刻だったのでな。ちょうど良かったわ!」
バースト皇帝は人間国で1番大きな国を治めているが、実務はすでに息子達に譲っており、現皇帝の相談役として本来存在している。重要案件の時は威厳を見せるために顔を出しているに過ぎない。
故に、現在の帝国での政治や経済などの情報は余り関与していないために、ここまで深刻化していることに気が付かなかったのだ。
しかし、これは応急処置でありそう簡単に兵士が強くなる訳ではない事を皇帝自身が1番理解していた。
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