人生の分岐点

救出した獣人の子供達には、根気よく獣人という種族の事や世界の大まかな常識を教えていくことになった。

しかし、事態は深刻化していく。救出してくる子供達がほとんどが洗脳教育を受けている事が判明した。年齢層は10歳前後が主であり、15歳以上は奴隷紋のみであった。



─魔王城の会議室─


「魔王様!俺はもう我慢できん!そろそろ逆襲の機会を与えて欲しい!」


会議は奮闘していた。今、怒っているのは同じ獣人であり、レオの父親であるレオン将軍であった。


「落ち着け。焦っても良い結果はでないぞ?」


珍しく逆にマモンが苦言する立場で言った。


「黙れ!我々、獣人族の尊厳が踏みにじられているんだぞ!我慢できるか!?」

「確かに黙っていられないな」


沈黙していた魔王バアルが口を挟んだ。


「このまま何もしなければ、何年も経って取り返しのつかない事になるだろう。獣人という種族が人間に完全に服従する未来が待っている!今は常識のある獣人達がいるので違和感を覚えるが、もっと『刷り込み』が深くなれば元に戻せなくなる」


………重い沈黙が流れた。


「シオンに動いてもらう時期がきたかも知れぬ」


!?


「それでは!?」


マモンが歓喜の声を上げるが─


「今回は人命救助が主だ!奴隷にされ、洗脳教育を受けている者達を救い出す!戦闘は極力控えるようにする!」


魔王バアルの言葉に一瞬、マモンは落胆したが、それでもシオンの初陣が決まったのだ。

これを機に人間の残忍性や愚かさを見せつけ、自主的に人間を滅ぼすように働き掛けようと思うのであった。


「洗脳教育を受けている獣人達の解放ね」


シオンの元に、詳細な作戦指令書が届けられた。


「シオンのダンジョンで貰った転移門は便利なの」

「うん、救い出したら転移門でおさらば出来るしね。なにより、人間を殺さなくていいって書いてあるし、初めての魔大陸外の活動にはちょうどいいわね」


父親である魔王バアルに呼び出されたシオンは驚愕の事実を突き付けられた。


「洗脳教育が開始したのは、魔大陸に獣人の奴隷をたくさん逃がしてきたことに起因すると?」

「そうだ。それで人間達は奴隷が足りなくなり、我々が助けに来ても拒むようにする為に、洗脳教育に切り替えたらしい。全くもって虫酸が走る思いだ!」


魔王からは怒りが滲み出ていた。


「正直、シオンは実力はあるが精神がまだ弱い。魔物退治と違い、明確な悪意を持って襲ってくる人間に対処できるか心配ではあるのだ」


うん、父も私の事を心配してくれているようだ。ってか、お母さんよりも私にかまってくるのは城に住むメイド達しか知らないだろう。


魔王の威厳の為に、人前では余り近寄らないからね。


「大丈夫よ!今回は極力、戦闘は回避して洗脳教育受けている獣人達を助けるのを優先にするからね!」


こうしてシオンは初めて魔大陸の外にでる事になるのだった。

この軽い気持ちで受けた救出作戦が、後に人間の国である1つの国を滅ぼす事になるとは今の段階ではわからなかった。



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