二話「私を救うたった一つの方法」

歩道橋から車道を見下ろしながら

「死んで異世界転生でも出来たら良いのに…」なんて妄想に思いを馳せた私は、

その後、肌寒くなってきたので、

コンビニでアメリカンドックとおにぎりを帰って家に帰った。


色々やけっぱちの気分だったので、

日頃は食べながら歩くなんて恥ずかしいという気持ちがあってやらないのに、

この日は堂々と路上でアメリカンドックをかじりながらの帰宅。

怖いものばかりの私の人生だったけれど、

今はなんだか怖いものがないような気持ちだった。

少なくとも金曜の夜は、次の月曜まではあの女に会わないで済むのだから。


今日は、もう冷蔵庫にしまってあるチューハイでも飲んで、

ぐでんぐでんになって嫌なことを忘れてしまおう。


そんな風に思いながら、帰宅。

缶チューハイを片手に、動画でも見ようとパソコンを立ち上げた。

好きな実況者のゲーム実況だとか、ニュース系の動画だとか、

好みの声の歌ってみただとか、そんなものをだらだらと眺めていたときに、

ふと目に入ってきた動画のタイトルに目が留まる。

『絶対にやってはいけない呪いのやり方★』そんな風なタイトルだ。

呪いなんて馬鹿らしい。迷信だ。効くはずがない。

大体呪いって効いちゃったら、かけた方にも悪影響があるんじゃなかったっけ?

そんなことを考えつつも、好奇心に負けてその動画をクリックしてしまった。


色々な動画で聞いたことのある聞きなれたフリー音源のBGMが耳に入ってきて、

ちょっと棒読みだけど妙に癖になる電子音声の女の子が、挨拶もそこそこに、

呪いのやり方をいくつか紹介していく。


呪いなんて言っても、私のイメージでは藁人形に釘を打ち付けるだとか、

相手の血や髪の毛をなんとかかんとかとかする…?とか、

そんな漠然としたものしかなかった。

だから単純に、その動画は知的好奇心を刺激されるものだった。


やり方は自分にも出来そうなことから、

どうやっても難しいだろう…と思えるようなことまで色々。

相手の持ち物を手に入れて土に埋めてうんたら…とか、

コップの水を月の光に当ててうんぬん…とか、はまだ出来そうだけど、

等身大の人形に、相手の写真を貼って云々とかはさすがに難しいよね、とか。

私はそれを真剣に眺めながら、いつの間にか「これは自分にも出来そう」

「こうやったらバレないでやれそう…」なんて考えながら見ていた。


そう、そして気がついてしまったのだ。

私がその気になれば、誰かを呪うことが出来るってことを。


私は見た。

呪いの動画をひたすら見た。

まだ呪いを実行はしないが、必要な時が来るかも知れない。

だから自分でも出来そうな呪いを覚えておく必要がある。

私は無我夢中になって呪いを学んでいた。

本当か嘘かわからないが、呪いのやり方を語る動画はいくらでもあった。



次の月曜日。

いつものように出社した私は同僚に挨拶しながら

(この人、同僚から呪いたいくらいに嫌われてるんだよな)なんて思うと、

少しだけ胸がすいた。

死ぬ勇気も殺す勇気もない私だけど、

呪いくらいならやってみてもいいかもな、なんて思えたら、

ほんの少し気持ちが楽になったりしたのだった。



私は何とも戦いたくない。怖いから。

私はとにかく傷つきたくない。怖いから。

だけど、それでも我慢できない怒りや悲しみを覚えることだってある。

戦わずに自分を守るためにはどうしたらいいのだろう。

そんな風に思った時に使える、私は一つのカードを手に入れたのだ。



そうだ!とりあえず呪っちゃおう!!!!





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戦わないOLの戦わない戦い 夜摘 @kokiti-desuyo

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