【超短編】俺は3回失恋した。けれども幼馴染も3回失恋してた ~4度目の恋はどうなる?

波瀾 紡

1話完結短編

 俺は高校生になって、今まで二度失恋した。

 二回とも自分から告白して、そしてその二人ともにフラれている。


 今度こそ。

 三度目の正直。

 そう思って、好きになった三人目の高橋さんに今日告白した。


 高校三年生の冬。

 放課後、寒い中彼女が校舎から出てくるのを待ち伏せて声をかけた。


「好きです。俺と付き合ってください」


 白い息とともに吐いたそんな言葉。

 だけど結果は──惨敗。


「ごめんなさい」


 一言だけ残して高橋さんは立ち去った。


 ああ、またダメだった。


 心の真ん中にでっかい穴が開いて、その中を冷たい風がビュンビュン吹き抜ける。

 単なる比喩じゃなくて、ホントに胸が痛いし身体が重い。

 空気の冷たさが身に染みる。

 俺はうつむいてとぼとぼと、駅までの下校路を一人歩いた。


 ふと気づくと、駅前に幼馴染の日葵ひまりが立っている。

 同じ高校に通う同級生。

 ショートカットのいつも活発な女の子なんだけど、今日はちょっと心配そうって言うか、なんだか微妙な表情をしてる。寒さのせいで頬が赤らんでいる。


「おかえりクロちゃん」

「あ……うん」


 日葵は俺の拓郎たくろうという名前から、なぜかクロちゃんと呼ぶ。

 小学生の頃からずっとそうだ。

 普通はタクちゃんだよな。

 日葵ってちょっと変わった女の子なんだよな。


 コイツには以前から高橋さんを好きなことを言ってあったし、今日告白するつもりだってことも伝えてあった。


「ねえクロちゃん。まあ人生いろいろあるさ! 元気出そっ!」


 俺がフラれた前提のセリフだな。

 まあこんな落ち込んだ顔してとぼとぼ歩いてたら、すぐにバレるか。


「そんな簡単に言うなよ。高校に入って、もう三回目の失恋だぜ。いい加減へこむわ」

「そっかぁ。一人目が鈴木さん。二人目が佐藤さん。そして今日の高橋さんが三人目」

「うわ、日葵。よく覚えてるなぁ」

「だってクロちゃんがフラれるたびに慰めてるの、私だよ?」

「ああ、そうだったよな、あはは」


 そう言えばそうだ。

 日葵のヤツ、今回ももし俺がフラれたら慰めるつもりで待ってた?

 こんな寒い中を?


「みんなクロちゃんの良さがわかんないんだよ。だから自信持ちなよ」

「あはは。励ましてくれてありがとな。でもやっぱ三回もフラれると、もう俺立ち直れないかも……」

「なに情けないこと言ってんの。私だって高校生になって三回失恋してるよ。だけど、また前向いて生きようって思ってるんだから」

「え……?」


 日葵が三回も失恋?

 いつの間に?


「おい日葵。そんな話、俺は全然知らないぞ」

「うん。だってクロちゃんには言ってないもん」


 なんでだよ?

 なんでそんな大事なこと、黙ってるんだよ?


「高校に入ってから三回も告ったんか?」

「ううん。告白は一度もしてない」

「告ってないのに、失恋って……どういうこと?」

「あ、うん。相手の人にね、好きな人ができちゃったの」

「そうなのか……」


 相手に伝えることもできずに失恋。

 それは俺よりも辛かっただろうに。

 しかも三回もか。

 それでも今まで、日葵が落ち込んだ姿を見せたことはない。


 そっか。気丈に頑張ってきたんだな日葵。

 確かに俺も、落ち込んでばかりいられない。


「なあ日葵。そんな辛いことがあった時はさ。俺に言えよ」

「言えない。だってクロちゃんに心配かけたくないもん」

「そんなこと言うなよ。俺が辛い時には日葵に慰めてもらってるんだからさ。日葵が辛い時には、俺が慰めてやるよ」

「そんなの無理だよ。クロちゃんには無理」

「はぁ? 俺を見損なうな。こう見えても俺は優しいんだぞ?」

「優しいのは知ってるよ」

「だろ? だからこれからは俺に言えよ」

「だけどさ……クロちゃんって優しいんだけど、鈍感だからね」

「鈍感? 失礼なこと言うな」

「だって今まで私がフラれて落ち込んでた時、全然気づいてなかったんでしょ?」


 うぐっ……確かに。

 それを言われると返す言葉がない。


「悪かったよ」

「別に謝ってほしいわけじゃないから」


 日葵は優しく微笑んだ。

 マジで俺を責めるつもりはないみたいだ。

 コイツ……ホントに優しいよな。


「それって……いつ頃の話?」

「え?」

「だから日葵がフラれたって、いつ頃の話かなぁって」

「ううーん……」


 日葵は少し眉をしかめた。


「あ、ごめん。嫌なことを思い出させたか。やっぱ言わなくていいよ」

「一回目が鈴木さんを好きだって聞いた時。二回目が佐藤さん、三回目が高橋さんを好きだって聞いた時だよ」

「え……?」


 それって……

 いや、まさかな。


「どういう意味だよ日葵?」

「ほらぁ。ここまで言ってもわからないなんて、やっぱクロちゃんは鈍感だ」


 いや、わかってるよ。

 わかってるさ。

 でも、まさかっていう気持ちの方が強い。


「それって……日葵はずっと前から俺のことを……」

「うん。そうだよ」


 日葵は少し寂し気に、ニコリと笑った。


 ホント俺ってバカで鈍感だ。

 ここに、こんなに素敵な女の子がいたことに──ずっと俺のそばにいたことに気がつかなかったなんて。


 日葵の柔らかな笑顔を見ていると、俺のぽっかりと開いた胸の穴に、冷たくて痛かった胸の奥に、温かいものがどんどん流れ込んでくる。

 顏も手も冷たいのに、心の中はぽかぽかとあったかくなるのが不思議。


「日葵……ありがとう」


 目の前の日葵が。

 寒そうに顔を赤らめた日葵が。

 今までずっと近くにいたはずの日葵が。

 すごく可愛くて──とても大切なものに見えた。


 四度目の正直?


 恋に落ちた瞬間って、こんなにはっきりとわかるものなんだ。

 俺は今初めてそう気づいた。


= 完 =

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