07-07 銀髪の聖女?(3)
一番近い森の入口まで一直線に飛んで、ヤマトとユラに連絡を取って二人と合流した。私たちが馬車に近づくと、ヤマトとユラが馬車を降りて駆け寄ってくる。
「長!」
「大丈夫ですか!?」
二人を順に見たカルラは「心配かけて悪かったな」と言いながらヤマトとユラの肩を叩き、馬車のほうに歩いていった。それをヤマトとユラが追っていく。御者席にひょいと登ったカルラは、珍しく御者席を素通りして荷台に向かった。私も羽を出して飛び、荷台に入る。
馬車の中でカルラは腕を組んで座っていた。
「よし、聖都から離れよか。ヤマトとユラで、交代で御者役をやれ。追っ手でも見えない限り、馬に無理させんなよ。何かあったらお嬢の判断に従うように」
「……カルラは?」
私が首を傾げると、カルラは馬車の端に置かれていた毛布を手に取って床に転がった。
「うちは疲れたからしばらく寝る。はいおやすみ!」
「ええ?」
確かにもう日は沈んだけれど、寝るというにはまだ早い。夕食だって食べていない。目を瞬いた私をよそに、ヤマトは黙って馬を走らせ始めた。ユラもカルラのすぐ横に腰を下ろし、膝を抱えて動かなくなる。カルラがちらりとユラを見た。
「ユラさあ、うなされたら起こしてくれへん?」
「……はい」
ユラが頷くと、カルラは私たちに背を向けるように寝返りをうった。私はユラとカルラに近づいて、カルラに視線を向けた。
「ねえカルラ、体調悪いの? 大丈夫? 水でも取ってこようか?」
そう聞いてみたけれど、カルラは私に背を向けたままひらひらと手を振るだけだった。寝ると言っていたし、あまり話しかけないほうがいいか。諦めて今度はユラのほうに顔を向ける。
「ユラ、うなされたら起こしてっていうのは……?」
「長は調子を崩すと、だいたいうなされはるんで」
ユラは一度カルラのほうに視線をやってから、床に目を落とした。やっぱり私が寝ている間に何かあったんだ。一緒に聖都に入ったはずのユラは馬車にいたし、時計塔で私に飛べと言ったあの声はニコルのものだった。
「ねえ、何があったの?」
「……」
カルラをちらりと見てから、ユラは何があったのかを教えてくれた。カリュディヒトスとの戦闘で何があったかはわからなかったけれど、白い炎に巻かれて倒れたカルラは、ニコルの治療が間に合わなければ危なかったらしい。カルラは変化の魔法すら使うのが苦しい状態なのに私を迎えにきてくれたということだった。
カルラを見るといつの間にか寝息を立てていた。顔色が気になったけれど、暗くてよくわからない。
この世界で白い炎といえば、ゲームでルシアやニコルが使っていた聖属性魔法のことだろう。ゲームで最後にディアドラを灰に変えたのも白い炎だった。魔法型に育てたルシアなら魔族や魔獣にかなりのダメージを与えていたし、強力な魔法のはずだ。
そういえばニコルは大丈夫かなと不安になったけれど、聖都を出た私たちには何もできない。助けてくれたのに、お礼も言えなかった。
「ん……」
身じろぎをしたカルラを見たユラが「長」と声をかけながらカルラを揺する。
「……あー、ありがと……」
寝ぼけた声でそう言って、カルラは大きなあくびをした。しばらくしてまた寝息が聞こえてくる。ユラが座り直し、抱えた膝の上に顔を埋めた。声をかけるべきか迷っていたら、ヤマトが私たちのほうを振り返る。
「ユラ、こっち来るか?」
「行かへん。長の傍にいる」
「そっか」
それだけで会話が終わり、ヤマトは再び前を向いた。馬の蹄と、馬車がガタガタ揺れる音が耳につく。戻ってきたという実感が今になってようやくやってきて、私は天井を見上げながらほうと息をついた。
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