07-05 カルラ v.s.???(2)


「なんであいつらがいんの!? ていうかここどこ!?」


「まっ、待て!」


「どうしてこんなところに魔族がいる!?」


 五人の人間の上を飛び越え、開かれた扉から洞窟を飛び出したカルラは、周囲を見回しながら走った。


 洞窟を出た先は、荘厳な雰囲気の広い部屋だった。ステンドグラスや祭壇のような物が視界に映った気がしたが、ゆっくり見ている余裕はなかったので何の部屋だったかはよくわからない。


 背後から白い炎が矢継ぎ早に飛んでくる。白い炎が当たるたび手足が激しく燃え、「あっつ!」とカルラは悲鳴を上げた。


 ――なんなん? 教会の奴らもこんな凶悪な魔法を使いよるん!?


 部屋を出た先は中庭に面した廊下だった。中庭には白い石畳が規則的に敷き詰められており、中央で水しぶきを上げる噴水には女性の像が設置されていた。女性の像の頭上から中庭を囲む壁の上に跳び移る。背後から罰当たりだなんだのと聞こえてきて、さっき足場にしたものは女神像らしいと知った。


 中庭の外壁に登ると、眼下に聖都が見えた。


「えっ」


 飛び降りながら振り返ると、背後にあったのは山に沿って建てられた教会の建物だった。


「なんちゅー場所に飛ばしてくれたんよ!?」


 カリュディヒトスはよくもまあ聖都の教会の建物なんかに転移できたものだ。なぜそんな場所に、ということを考えている余裕はない。飛び降りた先で、また別の聖職者に出くわしてしまったからだ。


「うげっ」


 攻撃を受けながらまた逃げる。追ってくる聖職者たちをただ倒すだけなら難しくない。何人いたって相手はただの人間だ。カルラなら一撃か二撃あればまとめてれる。


 しかしそれでは人間に喧嘩を売ることになるし、何よりカルラは思い浮かべてしまったのだ――ニコルとラースの顔を。彼らの同僚。そう考えたら、軽傷を与えることすら気が引けた。攻撃することもできず、ただ逃げるしかなかった。


 建物の屋根づたいに降りていって、街まで戻ってきた。聖職者たちは振り切ったけれど、ぐずぐずしていると追いつかれる。


 ――さて、ユラとお嬢はどこ行った?


 カルラは家屋の屋根から周囲を見回した。教会前の広場に、三つの頭を持つ犬のような何かが黒焦げで倒れている。黒焦げということは、倒したのはおそらくはディアドラなのだろう。カルラはもう一度周囲を見回してみた。しかしディアドラの姿は見つけられなかった。


 化け物が出たせいか一般の人間はいない。街の出口に集まっているのが遠くに見えた。


(――あ、やば……)


 ふ、と視界が暗く染まりそうになる。慌てて片足を前に出し、倒れそうになった体を支える。足が滑ったせいか傷が開いて激痛が走った。


「痛ったあ!」


 あまりに痛くてしゃがんで足を押さえたが、おかげで意識は戻った。


「長!」


 ユラが駆け寄ってきたので、カルラはばっと顔を上げる。


「ちょうどよかった、あんたはお嬢を連れて聖都を出ろ。うちは、あんたらが動きやすいようにもうちょっと引っ掻き回してから合流するわ」


「で、ですが長、顔色が」


「大丈夫や、はよ行け。あ、でもその前に――」


 さすがに毒消し草だけは欲しいと言いかけたカルラの言葉は、途中で止まってしまった。迫ってくる白い炎が目に入り、カルラはユラを突き飛ばした。


「――ッ!」


 白い炎をまともに浴びてしまい、カルラの全身を白い炎が包む。呼吸しようとして吸い込んでしまった炎が喉と肺を焼いた。喉を押さえ顔をしかめる。


 意識を焼き切られるような感覚があって、カルラは平衡感覚を失った。


 ユラに呼ばれた気がしたけれど、返事はできなかった。


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