06-02 二人だけのお茶会(1)
午前中はまたザムドと一緒に森に入って、昼食の時間に合わせて魔王城に戻った。手を洗ってから食堂に向かうと、お父様はいつものように既に食堂にいた。もう席に座っている。
お父様が私をちらりと見てから目をそらしたので、はてと首を傾げた。
「お父様、ただいま。どうかした?」
「お帰り、ディア。少し話したいことがあるのだが、まあ食べながら話そう」
「? うん」
促されるまま座って、いただきますと呟いた。それからフォークに手を伸ばす。今日はキノコとベーコンがたっぷり入ったパスタとスープだ。今日も森でたくさん土人形を作ったせいかお腹がすいた。
さっそくパスタをフォークにたっぷり巻いて口に入れる。パスタにソースがしっかり絡んで絶品だった。噛んでいるとつい表情が緩んでしまう。いやあ今日も最高だ、と思いながら手を頬に添えた。
お父様が私をじっと見ていることに気が付いて視線を返すと、お父様は少し笑ってから自分も食事を始めた。話って何だろうなあと思いつつも、空腹を落ち着かせることが先決だ。私もお父様も半分くらい食べたところで、ようやくお父様が口を開いた。
「ところでディアよ。その……五天魔将の座につく気はないか?」
「!?」
五天魔将って、え、なんで? 私が!? あまりに唐突な提案に驚いて、思わず口からはみ出ていたパスタを一本、テーブルに落としてしまった。口の中を慌てて空にしてから、「な、なんで!?」と聞いてみる。お父様はいたって真面目な表情で私を見つめていた。
「今日、カルラが帰ってきたので皆で話したのだ。ザークシードもカルラもジュリアスも、ディアならばと言っている」
力こそ至高と考えていそうなザークシードだけならともかく、カルラやジュリアスまで? 私はまだ十二歳の子供なのに?
確かにリドーとカリュディヒトスがいなくなったことで、ずっと五天魔将の席が二つも空きっぱなしだ。不本意ながら自分が強い自覚もある。どうしてよという気持ちが半分、なるほどという気持ちが半分だった。
皆から信頼してもらえたのならそれは素直に嬉しい。でも、うーん。ゲーム通りに魔王になるよりはマシのような気がするけれど、かといって五天魔将になるというのも、それはそれでどうなんだろう。私の希望する平穏な生活からは遠ざかる気がする。
「えっ、えーと……ちなみに五天魔将になったら何をするの?」
「そうだな、特に決めてはいないが、まずはナターシアの結界の再構築に必要な魔石集めでも手伝ってもらうかな」
心は断る方向に傾きかけていたのに、ナターシアの結界の再構築、と聞いてぐらついた。フィオデルフィアに行こうとする魔族もまだいるらしいし、フィオデルフィア側からナターシアに渡ってくることもできる状態にある。今のところフィオデルフィアからナターシアに来るような人間はいないけど。
結界を再構築できればナターシアの出入り口は隠し通路一つに限定されるし、ステータスが半減したままのお父様を守ることにも繋がるはずだ。
でも魔石集めくらいなら、五天魔将になるまでもなく手伝いたい。シリクスさんの研究室の魔法陣を解き明かすのはジュリアスに任せるしかないとしても、魔獣退治なら私にだってできるはずだ。ちょっと怖いけど。
腕を組んで唸っていると、お父様は息をついた。
「私としてはあまり気は進まないが……私もディアならば務まるのではないか、とも思えてな。もちろん強制はせぬし、即答せずともよい。少し考えてみてほしい」
「う、うん」
将、将かあ……。魔王ディアドラの印象が強すぎて、五天魔将になるという可能性は全く想定していなかった。戦うのは怖いので嫌だなあと思う一方で、五天魔将になればもっとお父様の助けになれるんだろうか、とも考える。でも私に何ができるかというと、このバカ高い魔力で何か魔法をぶっ放す、くらいのような気もした。
次のパスタを頬張りながら眉を寄せていると、お父様がまた私を見つめて言った。
「話はもう一つある。カルラがな、フィオデルフィアにお前を連れていきたいと言っている」
――ん? フィオデルフィアに?
お父様の言葉を聞いて私が思い出したのは、カルラと以前、本を買うためにアルカディア王国に行ったときのことだった。荒事ありでよければまた連れてきてくれるとカルラは言っていた。
でもあの時はカルラがリドーを追い始める直前だった。今フィオデルフィアに私を連れて行きたいとカルラが言ったのなら、それは本を買いに連れて行ってくれるわけではないのだろう。
リドーと戦うから手伝え、という意味だ。たぶん。
キルナス王国で戦った時のことを思い出し、ついお父様から目をそらしてしまった。
「もちろん危険はあるし、個人的には心配だから行かせたくはない。が、キルナス王国でのお前の戦いぶりもジュリアスから聞いているし、カルラはカルラで心配でな。無理にとは言わないが、カルラを助けてやってくれると嬉しい。これも即答せずともよいから、考えてみてくれるか」
静かな声でお父様にそう言われ、私は口の中のパスタをゆっくり飲み込んでから、一度だけ頷いた。
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