06-01 ジュリアスの報告(3)
グリードとジュリアスは執務に戻ると言って出ていってしまい、応接室にはカルラとザークシードだけが残された。カルラが立ち上がって伸びをしている横で、ザークシードは土産のクッキーを一つ口に放り込む。
「甘いな。残りは子どもたちにやるか」
「あの子らの分は別に買ってきたし、その袋はあんたが食べてもええで。ミュリアナたちの分はこのあと家まで持っていくわ」
「そうか?」
ザークシードは一瞬迷うように袋の中を見下ろしたが、すぐに閉じた。子供にあげる気だなと思ったが、まあ彼の自由だ。
「ディアドラ様は受けてくださるだろうか」
ザークシードがぽつりとそう言ったので、カルラは上に伸ばしていた腕を下ろして彼を見た。
「あんた、最初からお嬢を推しとったなあ」
「まあ、あれだけ強ければな。ナターシア内の魔獣討伐を手伝って頂けるだけでもだいぶ助かる。お主は前は反対しとったな」
「そりゃ、あのタイミングでは賛成できへんわ。うち、お嬢には人の話を聞かへん跳ねっ返りの印象しかなかったし」
ザークシードは「はっはっはっ」と腕を組んで笑う。それから手を下ろしてカルラを見た。
「まあ私も近い感想を持ってはいたが……ザムドの話を聞いているとな、印象は大きく変わるのだよ」
「いや、それはさあ、ジュリアスの坊んの話を聞いてると、あのボケボケグリードはんがとんでもない偉人のような気がしてくるっていう、不思議な現象と同じとちゃうの?」
「なくはない。が、それだけでもない」
へえ、とカルラはわずかに首を傾げる。ザークシードは窓の外に目を向けた。
「昔のザムドはレベルも低かったし、森の魔獣などとても相手にできんほど弱かったのだが、奴は五つになった頃からディアドラ様とよく森に狩りに行っとった」
「あー、あんな弱い子、よう森に行かせるなって思ってたわ」
「私も最初は心配しとった。しかしディアドラ様は、ザムドを森に一人置いて行きはせんのだよ。ちょっと目を離すとすぐいなくなるあの子が、森でディアドラ様とはぐれたことは一度もないと言っとった」
ほう、とカルラは目を丸くした。小さな子供はすぐ自由に歩き回っていなくなる、ということはカルラもよく知っている。里長をやっていた頃は里の子供たちの面倒もよく見ていたが、ザムドのような奔放なタイプは特に視界から消えるのが早い。
ザムドがディアドラについて回っていたから離れなかった、というのはあるだろうが、それだけでは何年もはぐれることなく遊び続けるのは難しい。
「それに昔、森で大怪我をしたザムドをディアドラ様が連れ帰ってくださったこともある。小さな怪我ならいつもディアドラ様が治してくださっていたらしい」
「へえー」
ザムドとディアドラは一歳違いだから、二人が遊び始めた当時のディアドラは六歳。カルラがディアドラとよく話すようになったのはここ数年のことだし、最近の印象に上書きされて昔のイメージは薄れつつあるが、六歳の頃のディアドラはなかなか難しい子供だったと記憶している。
だがザークシードの今の話を聞くと、当時抱いていた印象ほど酷い子供でもなかったのだろうか、という気もした。ここ数年のディアドラを思い返してみても、その考えは間違っていないのではないかと思えてくる。
ザークシードが続ける。
「私はザムドの話を毎日のように聞いとったし、塔でグリード様が重症を負われた際も、ディアドラ様はグリード様を助けようと必死になっておられたように感じた。ディアドラ様ならば共にグリード様をお支えしてくださるのではないかと、そう思ったのだ」
「ふうん……」
ザークシードが立ち上がり、伸びをする。
「まあそれはそうと、もし時間があるならザムドにも稽古をつけてやってくれ。最近奴の成長が目覚ましくてなあ」
「おっ、ええよ」
カルラが頷きを返すと、ザークシードは自分のクッキーの小袋をカルラに渡した。「うちに行くならついでに持っていってくれ」と言われたので、カルラはそれを袋にしまった。
応接室の戸が開いて、ジュリアスがザークシードを呼ぶ。一人になると暇だから、土産を配るためにミュリアナの家とフルービアの家を回るかと、カルラはもう一度伸びをした。
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