03-06 町を襲う魔族達(1)
なかなか進行方向を見せてもらえないまま、焦げ臭い香りと悲鳴だけが近づいてきた。
何か不穏な事が起きていることだけはわかる。カルラが簡易的な木の柵を飛び越え、いくつかの壊れた家屋が目に入ったところで、「ちょっと乱暴に降ろすで!」という言葉とともに地面に投げ下ろされた。
「ふぎゃっ」
不格好に転がって、腰をさすりながら身を起こす。
燃え上がる二階建ての家屋の前。抜身の黒い剣を二本携えた一人の男が立っていた。その周りには赤く染まった人形――いや、血だらけの人間が複数倒れている。
「なんだ、カルラとお嬢じゃねェか」
その男は――リドーは私たちを見て言った。彼の足元の凄惨な光景とは似つかわしくないにこやかな笑みを浮かべ、彼は一歩こちらに進み出る。
東の塔で逃してから音沙汰が無いと思っていたら、こんなところにいたのか。血まみれで倒れていたお父様を思い出してしまい、私はぎゅっと手を握りしめる。
カルラが私を背に庇うように前に立った。
「なんや好き勝手しとるらしいやないか。カリュディヒトスはどうした?」
リドーは「さあな。好きに暴れていいって言われてから会ってねェよ」と肩をすくめ、私を見た。
「なあお嬢、今からでもこっち来いよ。平和なんて退屈だろ?」
「行かないよ」
お父様にあんな大怪我をさせた奴らとなんて行くわけないでしょ、と心の中で呟いたけれど、聞いたことのあるようなフレーズに内心首を傾げた。
――平和なんて退屈だ。
どこだろう。どこで聞いたんだろう。
「お嬢は絶対〝こっち側〟だと思ってたんだけどなあ」
リドーはつまらなさそうな顔で首の後ろを押さえた。カルラが腕を一度ぐるりと回して言う。
「お嬢! リドー以外の魔族は任せたで!」
「ええ!?」
あたりを見回してみると、空を飛んでいる魔族やこちらに向かってくる魔族の姿が目に入った。なんで? え? 何人いるの? 任せたって言われても、私にどうしろと!?
周囲のあちこちから誰かの悲鳴が聞こえてくる。焦げ臭い香りと煙が辺りを漂い、パチパチと小さな音も聞こえていた。ルシアの町で魔族たちを止めたときは、魔族たちは障害物のない空の遠くに影として全員見えていた。けれど今は障害物だらけでどこに何人いるかもわからない。任せたと言われても、どうすればいいのかわからなくて、私はすぐには動けなかった。
けれど近くの建物から子供の悲鳴が聞こえてきて、そちらに向かって駆け出した。
◇
「さて、やろか」
カルラはリドーに相対して拳を構えた。素手で双剣を相手にするのは不利だとわかっているが、慣れない武器など持ってもかえって邪魔になるだけだ。
グリードやジュリアスからは、リドーやカリュディヒトスらを見つけたときの処遇について何も言われていない。しかしあのグリードもさすがに今回は甘いことを言うまい。ニコルから聞いたリドーたちの行為は、情けをかけるには度を越しすぎているからだ。
「ここで息の根止めたるわ」
カルラがそう言うと、リドーはおもちゃを見つけた子供のような目をしてニヤリと笑った。
「ハッ! 来な!」
彼の言葉を合図に、カルラは地面を強く蹴って一気に間合いを詰める。先に向かってきた剣の片方を身を低くしてかわし、もう片方を手甲で弾く。弾いたときの勢いのまま横に飛んで蹴りを繰り出したが、リドーも一歩離れてそれをかわした。
「リドー、あんたらの目的は何や」
一度間合いを取り直してカルラは聞く。
「カリュディヒトスの野郎の事なんか知らねえな! 俺はただ、暴れられればそれでいい!」
楽しそうに目をギラギラ光らせながら、今度はリドーが間合いを詰めてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます