02-07 帰還(2)
私たちは三人揃って魔王城まで歩いて帰った。そしてお父様に連れて行かれた先は応接室だった。部屋に着く前にザークシードは下がってしまい、今は私とお父様の二人だけだ。
ソファーに座ると、お父様は私の向かいに腰を下ろした。
「さてディア。なぜフィオデルフィアに行ったのか聞かせてくれるか?」
「う……」
ちらりとお父様を見上げると、お父様は私をじっと見つめていた。別段怒っている風ではないけれど、うしろめたさから、ついたじろいでしまう。
少し気持ちを落ち着けてから話した。お父様とジュリアスの会話を聞いてしまったこと、フィオデルフィアになら何かヒントがあるかもしれないと思ったこと。ルシアが町に入れてくれて、案内をしてくれたこと。ニコルを紹介してくれたこと、ルシアと一緒にクッキーを作ったこと、あの半透明の壁に囲まれてからニコルと話したこと。
お父様は時折頷くだけで何も言わずにただ聞いてくれた。そして私が一通り話し終えると、「そうか」と頷いた。
「お前が私を想って行動してくれたことは嬉しく思う。だが、今回のようなことがまた無いとも限らん。もうフィオデルフィアには行くな」
「……うん」
私は俯いたまま頷くしかなかった。お父様を助けたかったのに、逆にお父様を危険にさらしてしまった。私が余計なことをしたばっかりに。お父様は少しだけ意外そうな顔をしたが、それから小さく笑みを広げた。
「心配するな。ステータスが半減した程度で、私はそう簡単に負けはせん」
「……こないだ死にそうになってたくせに」
「お前を人質に取られていたのだぞ? 抵抗などできるものか」
お父様は少し前かがみになってこちらに手を伸ばし、そっと私の両の手をとった。
「私はな、ディア。お前に何かあると柄にもなく狼狽して、愚かになってしまうのだよ。それは覚えておいてくれ」
「……うん、わかった」
私が視線を返すと、お父様は手を離して立ち上がる。ちょうどそれを見計らったかのように扉の方からノックの音がして、ジュリアスが顔を覗かせた。なんだか急に部屋の温度が下がったような気がして、私は腕をさすってみる。なんだろう。寒い。
「〝お説教〟はお済みですか? でしたら、次はグリード様の順番ですね」
笑みを広げたジュリアスにそう言われ、お父様はピシリと硬直した。お父様はあまり顔や態度に出ないタイプだけれど、私もだんだんお父様の表情が読めるようになってきたようだ。これはだいぶアワアワしている。
ジュリアスの後ろではザークシードが顔の前で手の平を合わせながら、申し訳なさそうに頭を下げていた。お父様は数秒固まっていたけれど、諦めたように息を吐くと私に視線を向ける。
「……ディア、部屋に戻っていなさい」
どうやらジュリアスの〝お説教〟を大人しく受けることにしたらしい。
――魔王がずっと年下の部下に説教されるなんて、変なの。
頑張ってねと笑顔で言うと、二人の間を通り抜けて駆け出した。
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