02-06 魔王と聖者(2)



 ザムドに呼ばれたような気がして階段の上を返り見る。でも入り口はもう閉まっていて、ごつごつした岩肌が並んでいるだけだ。


 まあ気のせいだろう。ザムドには今日の午後は遊べないと言ってあるのだし。


 私は足早に薄暗い地下道を抜けると、フィオデルフィア側の出口から外へ出た。ルシアがいつものところで待っていると言っていたから、また町に入れてもらおう。人間に見せるための魔法はかけてあったけれど、念のため今日もフードを目深に被って森を走る。


 探してみるとニコルは言ってくれたけれど、必ずしもお父様のステータス異常を治す方法が見つかるとは限らない。それでも期待してしまうのを止められなかった。


「あっ、ディア!」


 いつもの場所に出ると、ルシアがすぐに気付いて手を振ってくれた。でもその横に、予想していなかった人物が立っている。


「こんにちは、ディア。三日ぶりですね」


「――司祭さま」


 ニコルは穏やかな笑みを浮かべているけれど、何を考えているのかは窺い知れない。こんなところで待たれてしまったら、私が町の外から来たと言っているようなものだ。


 近付けなくなってしまった私に、ニコルはにこやかに言う。


「驚かせてすみません。早くお伝えしたかったもので、待ち合わせ場所に来てしまいました。例のステータス異常を治す方法ですが、見つかりましたよ」


「ほんとに!?」


 ええ、とニコルは笑う。


「ただ、教団外秘の内容ですので、他の方に聞かれるわけにはいかなくて……町の外でお話しできますか?」


「……」


 ニコルの話は本当だろうか。町の外で話したいなんて、どう考えても怪しい。でももし本当だったとしたら、ここで断ったらもうお父様のステータス異常を治す方法が見つからなくなるかもしれない。


 ひとまず話に乗って、危なくなったら逃げるか……?


 ゲームでのニコルは序盤から登場はするものの、パーティに正式に加入するのは中盤――確か、レベルは三十台後半。今の彼のレベルはわからないけれど、あれより高いことはないはずだ。私のレベルは八十五だから、一対一ならまず負けない。いざとなれば逃げることくらいは余裕でできるはず。


「わかった。どこで話せばいい?」


「では少し歩きましょう。ルシアはここで待っていてもらえますか?」


「えーっ、わたしも行きたいよ」


 ルシアは不満の声を上げたけれど、私がごめんねと笑顔で言うと、口を尖らせながらその場にしゃがみこんだ。


「じゃあ、わたしはここで待ってる」


「うん、ありがと」


 ニコルに視線を移す。彼は笑顔を崩すことなく、ではこちらへと森に足を向けた。



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