02-05 稀代の天才(1)


 ニコルとの約束の日まで、森で狩りをしたり魔法の練習をしたりして過ごすことにした。


「ザムド、今日は午前も午後も森に行けるよ」


「ほんとかっ! やったー!!」


 森でできることなんて限られているのに、ザムドは飛び跳ねて喜んでいた。彼なら町に他の友達がいてもおかしくはないけれど、ディアドラとばかり遊んで楽しいんだろうか? もしかしたら、町の子供達は狩りに行くほど強くはないのかもしれない。


「本当に狩りが好きだね……」


 呆れの混じった声で言うと、


「うん! ディアと狩りに行くと、どんどんレベルが上がって強くなれるからな! ディアも俺が強くなれるって言ってくれただろ?」


 と、ザムドは満面の笑みで答えた。


 確かに言った。夜の森にザムドを探しに行った時、私が一番でザムドが二番目に強くなるのだと。正直私としてはあの発言は忘れて欲しい。まあでも喜んでるからいっか。


 お父様に買ってもらった転移魔法の本は難しすぎたので、土人形の魔導書を持って森に出た。ザムドが黒兎や土モグラと格闘しているのを横目で見ながら魔導書を開き、新しい土人形を作ってみる。相変わらず茶色くてのっぺりしているけれど、私と同じくらいの大きさになら楽に調節できるようになってきた。


(この人形に戦わせれば、私は怖い思いをしなくてもいいんじゃない?)


 そんな期待を胸に魔導書をめくっていくと、土人形に自動戦闘をさせる方法について記載されているページが目に止まった。


 たくさん魔力を込めてやれば魔力切れになるまで自動で戦わせることもできるらしい。ただし敵味方の区別をさせようとすると、複雑な魔法陣を人形に刻まないといけないようだ。


 そういえば最初に土人形を造ったとき、周りを飛ぶザムドを土人形がはたき落としたのは、魔力を込めすぎた結果だったのかもしれない。この土人形にお父様の護衛をさせることはできないかな? 実際に見てはいないけれど、お父様の剣術スキルには不安しかない。


 そんなことを考えながら魔法陣の説明を読んでみたけれど、さっぱりわからなかった。ディアドラは自分で魔法をぶっ放すタイプだったから、彼女の記憶にも魔法陣に関する知識はない。


 それに強い土人形にしようとすると魔力切れも早いらしい。長く保たせようとするのであれば、魔力を充填した魔石を埋め込むと書いてある。魔石は電池みたいなものかな?


 魔石は魔獣を倒すと体内から採取できるらしいし、お父様が換金していると言っていたから、使い道のある物なんだろう。


「ディアっ、俺、一人で狩れた!!」


 ザムドが興奮しながら駆け寄ってきたので、私は顔を上げた。ぷすぷすと白い煙を上げながら倒れている黒兎と土モグラを目の端に捉えてから慌てて外し、「やったね」と笑っておく。だいぶ時間がかかっていたようだけど、まあ、勝ちは勝ちだ。


 ザムドが両手をバンザイしながら飛び跳ねるのを見ていると、土人形を使いこなせるようになるよりザムドを鍛えたほうが早いんじゃないか、という気がしてきた。なにせ未来のナンバーツーだ。いや、お父様がいるからナンバースリーか? でも前に牢から脱出したときのように、土人形が何かの役に立つかもしれないし……。


 うーんと唸りながら、再び本に目を落とした。


 何かの役に立つかもしれないという意味では、転移魔法こそ使えるようになりたい。買ったときは本のタイトルに転移魔法と書いてあることしか目に入らなかったけれど、あれはとても分厚い専門書だったのだ。


 魔法陣の意味、空間とは何か、時間の連続性など、難しすぎる内容が並んでいて私には一ページも理解できなかった。お父様がこれは難しいぞと言って渋ったのも今なら理解できる。よくあんな難解な本を買い与えてくれたものだ。


 ジュリアスか、この前面倒みよく魔法を教えてくれたカルラあたりに聞いてみたら、少しは理解できるようにならないかな?


「ザムド、もう周りに魔獣が見当たらないし、移動しよっか」


「うん!」


 理解できないページはいったん棚上げして、作り出した土人形を戦わせてみることにした。



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