02-05 稀代の天才(2)
カルラがまた来てくれないかなと思っていたら、その夜には姿を見せてくれた。
「聞いてやグリードはん、例のアレ、少しやけど手に入れて来たったで」
また夕食中に食堂に入ってきたカルラは、空いている椅子に勝手に座ると、足を組んで頬杖をついた。お父様がカルラに困ったような視線を向ける。
「カルラ、食事中なのだが……」
「ええやん。ザークシードはおらんし、ジュリアスの坊んは忙しそうやし、退屈やねん。お喋りくらいしようや」
お父様は小さく息をつくと、ベルを鳴らして使用人を呼び出した。カルラに飲み物をとお父様が頼むと、使用人は頭を下げて去っていく。それを見送ってから、カルラは私に視線を向けた。
「ところでお嬢、どや? あれ、長時間続けられるようになったか?」
「うん」
うなずきながら肉を口に運ぶ。今日のチキンステーキはレモン風味のソースでとても美味しい。お父様がそんな私たちを見比べて首を傾げた。
「あれ、とは?」
「お嬢が帽子を着けるのに角が邪魔やって言うから、見た目を変える魔法を教えたってん。ほれお嬢、やってみ」
もう一度頷いてから自分に魔法をかける。手で触って確認はしていないけれど、角はきれいに消えたはずだ。
「……ああ、小遣いが欲しいとはそういうことか」
全然違うけれど、そういうことにしておこう。
使用人が戻ってきて、カルラの前に水の入ったグラスを置いて去っていった。
「なんやグリードはん、お嬢に小遣いもやってへんかったん?」
お父様が頷くと、カルラは腰に手を当ててため息をつく。
「あんなあグリードはん、お嬢かて女の子やで。おしゃれくらいしたいやろ。まだ小遣いも渡してへんって、遅すぎるんと違う?」
ディアドラも私もそれほどお洒落に興味はない。しかし帽子を着けたいと嘘をついている手前、黙って流す。なんだ、お父様が知らなかっただけで、魔族にもお小遣いという概念はあるんじゃない。
お父様が困ったように私を見た。
「すまない、気が利かなくて……」
「お嬢、グリードはんは何も考えてへんことが多いから、して欲しいことはちゃんと言わなあかんで」
「う、うん」
私がボードゲームで遊んで欲しいとかお小遣いが欲しいとか言えばちゃんと応えてくれるけれど、確かにディアドラの記憶の中で、お父様から何かしてもらったことはほとんどない。何も考えていないわけではないのではと思ったものの、否定できる要素もないので黙っておく。
「まあシリクスがおらんようになってから、グリードはんも死ぬほど忙しかったしなあ……こないだお嬢が言うとったで? 構ってもらえんで寂しかったって」
ん? 言ったっけ?
そういえばそれに近いことは言ってしまったけれど、正直でまかせだった。でも取り消したら取り消したで墓穴を掘りそうだったので、また黙って流そう。
ディアドラが寂しかったのかどうかについては、彼女の記憶を持つ私にもよくわからない。私だったら寂しいけれど、ディアドラはどうだったんだろう?
「それは……すまなかった」
お父様が申し訳無さそうに私を見たけれど、「いいよ」と首を振ることしかできない。なにせ私は遊んでもらったり手を繋いでもらったりと、十分構ってもらっているのだ。
「ところでカルラ、あとでまた魔法を教えてくれない?」
「ん? ええで。ほな用事が終わったらお嬢の部屋に行くわ」
お父様が私をちらりと見て「魔法なら私が」と口を開いたけれど、「あんた、今教えられんの?」とカルラに重ねられて黙ってしまった。
どうせならお父様に教えて欲しい。でもジュリアスが忙しそうにしていたということはお父様も同じなんだろう。それに今お父様は魔法をまともに使えない。
カルラに待ってると言い置いてから、ちょうど食事が終わった私は先に部屋に戻ることにした。
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