02-02 たくましすぎる聖女(2)


 書店は町の中央付近に立っていた。


 それなりに大きい建物で、ルシア曰くこの町唯一の本屋だ。ちなみに図書館のようなものはないらしい。扉をくぐると、真っ先に目に入ったのは新刊コーナー。そこには数々の本が平積みされている。その中には娯楽小説と思われる本もあって、私は思わず立ち止まってしまった。


(こ、これは、宝の山……!!)


 積み上がった本の数々から眩さを感じ、うっかり手に取りそうになった。慌てて伸ばしかけた手を引っ込める。


 いや違う、今はお父様のステータス異常を何とかする方法を探しに来たのだ。小説なんて選んでいる場合ではない。……でも、ちょっと表紙を眺めるくらい、いいかな? 大人向けと思われる本もあれば、子供向けの可愛いイラストが書かれた本もある。いいなあ、ライトノベルっぽい本、欲しいなあ……。


「ねえ、これ知ってる? 面白いよ」


 ルシアがひょいと本を手渡してくれる。いや小説を買いに来たわけではない、と思いながらも、誘惑に負けてまじまじと本を見つめてしまった。


 一冊くらい買ってもいい……か?


 お金の入った布袋を開けてみる。お父様と話せなくて補填できていないけれど、まだ二千ゴールドくらいは残っている。買えないことはなさそうだ。


「私、魔導書を探してるの」


 誘惑にあらがいながら小説を棚に戻そうとして――戻せなかった。魔導書を買うのにお金が足りなかったら戻す。うん、きっと戻す。たぶん。


「そうなの? じゃあこっちだね」


 ルシアが書店の奥に案内してくれたれど、そこに並んでいた魔導書は決して多くはなかった。炎魔法初級、気軽に始める生活魔法、やさしい回復魔法――など、並んでいるのは初心者向けの本ばかりで、上級者向けの本はない。これなら魔王城の書庫や城の近くの本屋の方がよっぽど充実している。


 ううんと眉根を寄せる。するとルシアがこちらの顔を覗き込んできたので、慌てて飛び退いた。ルシアは不思議そうに首を傾げたけれど、またニコリと笑った。


「どうしたの? 欲しい本がなかった?」


 どうやら顔を見られたわけではないらしい。私はほっとして再び本棚に視線を戻した。


「うん、何ていうか、解毒魔法とかそういう系統の魔法がないかなって」


「毒なら毒消し草でいいんじゃないの?」


 ――い、いや、そうなんだけどっ!


 ぐぬ、と私は言葉に詰まる。あまり正直に話すのもどうかと思うけれど、一人で闇雲に探すのは効率が悪い。他の棚に並んだ背表紙の文字を目で追いながら言う。


「父のステータス異常を解く方法がないかと思って……」


 ルシアもうーんと言いながら本棚に視線を移す。


「ステータスかあ。そういう魔法の本は見たことないなあ……でも、解毒とか、解呪とか、そういうのは教会に行けばいいって聞いたことがあるよ」


「教会かあ……」


 ゲームではあまり使わなかったけれど、確かに教会でお布施を払うと毒を治したりステータス異常を解除したりしてくれる。でもそれにはお父様を教会に連れて行かないといけないわけで、いくらなんでも無理がある。はあとため息をつくと、本を探すのをやめてルシアを見た。


「欲しい本はないみたい。案内してくれてありがとう」


 じゃあ私は帰るねと続けるはずだったのに、その前にルシアがにっこり笑って言った。


「じゃあ、今度はわたしに付き合ってよ」


「え!?」


「私ね、本当は森にキノコを採りに行くところだったんだ。一緒に行こ!」


 いやいやいや、なんでよ! 一人で行きなよ!


 一歩後ずさったけれど、ルシアはこちらの様子などまるで気にしない様子で私を店主の方に引っ張っていった。抱えたままだった小説を結局買い、半ばルシアに引きずられるように町を出る羽目になった。


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