2章 救世の聖女と慈愛の聖者

02-01 はじめてのお散歩(1)

 お父様が目覚めた翌朝、いつもの時間に食堂に入ると、お父様が席についているのが目に入った。


 朝の挨拶をするのも忘れてお父様の傍に駆け寄る。目覚めたばかりだし、もうしばらくはベッドに横になっているものと思っていた。


「もう大丈夫なの?」


「ああ。座りなさい、食事にしよう」


 魔王ってすごいな、と思いながら席につく。ザークシードといいザムドといいお父様といい、魔族とは本当に頑丈な種族なのかもしれない。今日の朝食には珍しく目玉焼きが追加されていた。快気祝いかな? それ以外はいつもどおりにパンと肉とキノコだけれど、お父様がいるというだけで昨日よりずっと美味しく感じる。


 しばらく無言で食事を進めていたら、お父様が不意に言った。


「ところで、このあと時間があるようなら一緒に町を散歩しないか」


「町を? もうそんなに動いて大丈夫なの?」


「問題ない」


 どうしようかな。前に町へ行った時、住民の視線がいたたまれなかった。あの時はザムドが一緒だったから良かったけれど、お父様と一緒の時にあの視線を受けるのかと思うと気が重い。でもお父様と散歩、それだけはこの上なく魅力的だ。


「嫌か?」


「あっ、ううん、行く」


 つい反射的にそう答えてしまってから、まあいっか、と思うことにした。行き先はともかく、お父様と散歩には行きたい。


「食べ終えたらジュリアスに伝えてくるから、城の正面で待っていてくれ」


「わかった」


 散歩が楽しみだなあと考えたら食事がもっと美味しく感じられて、口元がゆるむのを抑えられなかった。



  ◇



「町に、ですか?」


 昨夜意識が戻ったばかりだというのに、朝から執務室に顔を出したかと思えばいきなり外出すると言う主君に、ジュリアスは耳を疑った。ジュリアスとしては、まだ一ヶ月、せめて一週間は休んでほしい。それに今が好機と魔王の命を狙う者が襲ってこないとも限らないので、警備の行き届いた城にこもっていてくれた方が安心だ。


 しかしグリードは事もなげに言う。


「ああ。結界が壊れたことで不安に思っている者もいるだろう。早めに顔くらいは見せに行かんとな」


 確かに町の住人にも動揺が広がってはいるのだが、それよりは自分の体をいたわってほしかった。しかし言っても無駄だと判断し、ジュリアスはため息をついた。


「せめて護衛をお連れください」


「必要ない。ディアを連れていく」


「……そうですか」


 ディアドラであれば護衛としてはこれ以上ない適任者だ。何しろ現状、グリードを除いて彼女より強い魔族などこの城にはいない。


 お気をつけてとジュリアスが頭を下げると、町を一周したら戻るとグリードが答えた。



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