01-09 後悔はいつしたって遅いのだけれど(1)


「ジュリアス! お父様は!?」


 魔王城に戻ってすぐ、私はお父様とジュリアスの姿を探した。お父様は見つけられなかったけれど、廊下でジュリアスを目にした瞬間、彼に駆け寄る。ジュリアスは私を見て少し驚いたようだったけれど、すぐにいつもの冷静な表情になって口を開いた。


「私の魔法でも全快とまではいきませんでしたが、今は落ち着いてお休みになっています」


「そう……」


 休んでいるというなら自室だろう。走り出したい気持ちを抑え、早足でお父様の部屋に向かった。できるだけ音を立てないよう、そっと部屋の扉を開ける。


 家具も本棚の本も整然と並んでいる室内は、几帳面そうなお父様らしい部屋だった。奥のベッドに横になっているお父様は血の気の引いた青白い顔色をしていたけれど、静かな寝息を立てていることに少しだけほっとする。しばらく寝顔を眺めてから、小さな土人形を部屋の片隅に残して部屋を出る。


 お父様がまだ生きていることに安堵する一方で、同時にこのまま目覚めなかったらどうしようという不安に襲われる。だってゲームにお父様は登場しなかったのだ。このまま息を引き取ってしまう可能性だってなくはない。ゲームの流れに添わせるための強制力があったらどうしよう。


 部屋に戻っても何もする気が起きなくて、ソファーに身を沈めた。


 ――もっと早く、駆けつけられていれば。


 いや、カリュディヒトスが誘いに来たとき、衝動的に対応するのではなく、例えば話に乗るふりでもできれば、お父様と一緒に対処できたかもしれない。


 いや、カリュディヒトスの言動を最初からお父様に報告して相談していればよかったのかもしれない。


 私はどうしてあんな風にしか対応できなかったんだろう。もっとうまく立ち回れれば、お父様があんな大怪我を負うこともなかったかもしれないのに。


 ――推しが大怪我するシーンなんて、これが物語なら萌えるんだけどな……。


 たとえここがゲームの世界でも、もう私にとっては物語の世界じゃない。また泣きそうになって、両の頬をぱしんと叩いた。


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