01-08 裏切り(4)
牢獄を出て階段を登った先は、魔王城近くの小さな小屋だった。羽を広げて空に飛び出したけれど、肝心のお父様の居場所がわからない。こんなことなら今日の行き先を聞いておけばよかった。結界に魔力を込める日なのだとカリュディヒトスは言っていた。それなら結界には核となる場所があるんだろうか?
不意に、パァン、と大きな音が聞こえてきて、そちらを振り返る。魔王城の東にそびえ立つ塔から煙が上がっているのを目にした瞬間、全速力でそちらに飛んだ。窓から様子を伺うと、お父様が血まみれで膝をついているのが目に入って、カッと頭に血が上る。
「私の、お父様に――何すんのよッ!」
炎を腕に
「おいカリュディヒトス、お嬢は出てこられないんじゃなかったのかよ」
「馬鹿な……どうやって」
「あんな仕掛けくらい余裕よ!」
ゲーマーなめんな、とは心の中でだけ付け足しておく。ガチ難易度のパズルゲームは得意ではないけれど、RPGのミニゲーム程度なら十分解けるんだから。
カリュディヒトスとリドーは苦々しげな顔で互いを見合わせたあと、私が空けた穴から飛び出していった。それを追いかけようとした私の足が止まる。お父様が倒れた気配がして、慌てて振り返った。
「お父様! 待って、今回復魔法を」
「いい……それより、鞄から、通信用の魔道具を……」
「わ、わかった」
お父様に駆け寄って膝をつく。血溜まりについた膝から伝わる熱は、とても熱かった。周囲の床は一面真っ赤なのに、お父様の顔は真っ白で、苦しそうに浅い呼吸を繰り返している。
震えそうになる手で小さな鞄を探る。鞄にはほとんど何も入っていなかったけれと、ビー玉のような小さな玉がチカチカと点滅していた。これか?
『グリード様! 東から煙が見えますが、ご無事ですか!?』
『返事をしてください!』
ジュリアスとザークシードの声だ。私はそのビー玉を引っつかむと、ビー玉に向かって叫んだ。
「ジュリアス、ザークシード! お父様がひどい怪我をしてるの、今すぐ塔に来て!」
「いや、来なくて、いい……」
「えっ!?」
お父様は苦しげに顔を歪めながら腕を伸ばし、私の持っていた玉に触れた。
「結界の魔石を壊された……もうすぐ、結界が解ける。これ幸いとフィオデルフィアに向かう魔族もいるだろう。私のことはいいから、奴らを、止め……っ」
血の塊を吐き出したお父様に、慌てて回復魔法をかけ始める。けれど傷はなかなか塞がらず、血溜まりが広がっていく。お父様の体から徐々に力が失われていくのがわかって私は焦る。
『――……承知いたしました。どうぞ、ご無事で』
ザークシードの、感情を押し殺したような低い声が魔道具から聞こえてくる。
『グリード様、しかし……』
ジュリアスは何か言いたげだったが、お父様に頼むと言われて押し黙った。
ふ、とお父様の腕から力が抜けて床に落ちる。さっきより顔色が悪くなり、呼吸も弱くなってきたような気がする。どうしようどうしよう、と泣きそうになりながら考えた。私の回復魔法では力が足りない。もっと回復魔法が得意な誰か、そうだ、ジュリアス!
「ジュリアスはこっちに来て! 私じゃお父様を助けられない。代わりに――フィオデルフィアには、私が行くから」
「駄目だ……ディア……」
「大丈夫。私の魔力はまだまだ残ってるもん」
お父様から離れると、急いでフィオデルフィアに向かって飛んだ。後ろからお父様が私を呼ぶ声が聞こえていたけれど、振り返ることはしなかった。
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