01-08 裏切り(2)
「うーんこれは……どうしよう」
私は牢獄の鉄格子を両手で握りしめながら、何度目になるかわからない唸り声を上げた。強力な結界がかかっているというだけあって、ディアドラの攻撃魔法をどこに当てても傷一つつかない。壁も天井も床も鉄格子も、全て無傷だ。
あとは鍵を開けるしかないんだろうけれど、鉄格子の外は僅かなスペースと上り階段があるだけで、壁に鍵がかけてある様子もない。
魔王と共に消えてもらうと言っていたけれど、カリュディヒトスはディアドラなしで一体どうする気なんだろう?
ゲームにおける彼の印象は正直薄い。序盤にボスとして登場し、聖女に負けて逃げたあと、また終盤にボスとして出てきた、ということは覚えている。魔法も打撃もディアドラや他の五天魔将に比べるとパッとしないし、特徴的なのは毒などのステータス異常くらいだ。聖女が解毒魔法を早々に覚えていたしアイテムもあったので苦労しなかった。苦労したのは彼本人よりむしろ、彼のいた洞窟に、トラップやら変な仕掛けやらがやたら多かったことの方だ。
――あ。
「毒……ステータス異常……トラップ……」
カリュディヒトスはお父様を罠にかけるつもりなのかな。魔力が尽きているところに毒とステータス異常を食らえば、さすがにレベル百二十六の現魔王とて厳しいかも? でもカリュディヒトス本人が強くない以上、お父様を倒すにはもうひと押し足りない気もする。
「うーん」
考えてみたところで、わからないものはわからない。そんなことよりこの牢獄から抜け出す手段を考える方が先決だ。うんうん唸りながら体を揺すっていると、何かが床にぽとりと落ちる。それは朝作った小さな土人形だった。肩に乗せていたのをすっかり忘れていたらしい。
――これだ!
土人形を操作して鉄格子の隙間をくぐらせる。思ったとおり土人形は鉄格子を通り抜けて外に出た。土人形に外から扉を触らせると、何かのパネルが空中に出現する。
「いい感じなのでは!?」
パネルに顔を寄せてみても、牢の中からはよく見えない。完全に外からの操作しか想定していないらしい。次に土人形と一緒に持っていた魔導書の目次を開いてみた。なんかこう、土人形と視界を共有するような魔法は――ある! ナイス魔導書! 魔導書を町で買ってきた私、超ファインプレー!!
大急ぎでそのページを開く。土人形と視界を共有するには、土人形の目に魔力を強めに込めておくと記載されている。牢の外にいる土人形に視線を向けてみたけれど、その土人形に目など作っていない。のっぺらぼうだ。
「ぐぬぬぬ」
私は再び目次に戻り、土人形の形を作り変えるための手順を探した。
「なんで最初のサンプルに目が無いのよ!」
顔も知らない著者に当たってみても始まらない。始まらないのだが悪態くらいはつきたい。この小さなサイズで作るのは、魔力が高すぎるディアドラには難しいのだ。
手元に戻した土人形に試行錯誤してなんとか目をつけると、再び牢の外に送り込んだ。それでようやく扉のパネルを見ることができた。視界が二重になってだいぶ気持ち悪いが、耐えるしかない。パネルに表示されていたのは不思議な文様だった。六つのブロックに分かれていて、どれも繋がっていない。
――これは。
ゲームで解いたことのある、カリュディヒトスの仕掛け魔法だ。ブロックに分かれた文様を移動させたり回転させたりして繋ぎ合わせるパズルだ。
「いける!」
ゲームで見たものとは多少違うけれど、解き方はだいたいわかっている。私はガッツポーズをすると、土人形の手をパネルに乗せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます