01-08 裏切り(1)


『こちら西の塔、準備完了いたしました。いつでも始められます』


 通信用の魔道具が光り、ジュリアスの声が聞こえてくる。グリードは一つ頷くと、魔道具に向かって言う。


「私も問題ない。他の皆はどうだろうか」


 やや間があって、最初に返事をしてきたのはザークシードだった。


『南西の塔、問題ありません』


『南東もオーケイだ、いつでもどうぞ』


『東の塔も始められますぞ』


 リドーもカリュディヒトスも準備はできているらしい。


「そうか、では始めよう。よろしく頼む」


 グリードはそう言ってから魔道具を鞄にしまうと、塔の中央に浮かぶ大きな魔石を見上げた。魔族一人分の背丈よりも大きな魔石は、ナターシアを覆う結界を支えている核の一つだ。ナターシアには同様のものが全部で五つ設置されており、五天魔将とグリードが毎年魔力を注ぎ込むことで強力な結界を維持している。ジュリアスの父シリクスが残してくれた、ナターシアに二つとない重要な仕掛け。


 グリードは右手を魔石に向け、そこから己の魔力を魔石に注ぎ込む。魔力のおよそ三分の一程度を吸い尽くしたところで、魔石の魔力が一杯になったのを感じた。これでまた一年は結界を維持できるだろう。


「北の塔は終わった。他も終わったら教えてくれ」


 鞄にしまった魔道具を取り出して声をかける。しばらく待っていると、魔道具に反応があった。


『南東は終わったぜ。今年も俺様が五天魔将では一番だな』


『リドー様、競争ではありませんよ。それはそうと、西の塔も終わりました』


『はっはっはっ、南西も終わりましたぞ』


 残るはカリュディヒトスの東の塔か。リドー達の報告からやや間があって、カリュディヒトスの声が魔道具から響いた。


『歳のせいか、若干魔力が足りませんでな。少しご助力頂いてもよろしいでしょうか? いやはや、儂はそろそろ引退時かもしれません』


 カリュディヒトスの言葉に、グリードは「そう言うな」と苦笑する。結界の魔石に力を注ぐには相当の魔力が必要になる。カリュディヒトスが引退したいと言っても、なかなか代わりの人材がいないのだ。


「東の塔へは私が行こう。他の皆はもう戻ってくれ」


 そう言って、グリードは魔道具を再び鞄にしまう。足早に塔から出ると、東の塔に向けて飛び立った。


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