01-07 困った弟分(3)


 書店に入ると、奥で本を読んでいた店主がこちらを見てぎょっとした。でも今はそんな事を気にしてなんかいられない。広くはない書店だけれど、娯楽に飢えていた私には宝の山にしか見えなかったから。ザムドがつまらなさそうな顔で入り口に立っているのも気にならない。


 どんな本があるんだろう。さすがに漫画は期待できないとしても、軽く読める小説があったら絶対に欲しい。わくわくしながら一周してみたけれど、期待していた娯楽小説のようなものは一つも見つけられなかった。


 がっくりと肩を落とし、魔導書コーナーにあった本に視線を向ける。せめてディアドラの使えない、攻撃魔法以外の魔法を覚えてみたら楽しめないかな。この間は夜の森で明かりがなくて困ったし、闇を照らす魔法とか――


「……お?」


 平積みにされていた本の中に、表紙に土人形の絵が書かれたものを見つけた。もう人形遊びを喜ぶ年ではない――少なくとも精神年齢は二十歳のつもりだ――けれど、動く人形があれば物を運ばせたりゲームの駒代わりに使ったり、何かと便利なんじゃないかな?


 よし、決めた。その本の値段を確認し、店主に本とお金を渡す。店主は戸惑いながらもお会計をしてくれた。書店の入り口では、ザムドが退屈そうに座り込んでいる。


「終わったよ」


「おっ、じゃあ森に行こうぜ!」


 この辺には他に遊ぶ場所はないんだろうか? でも買ったばかりの魔導書の中身を試してみたいし、まあいいか。


 今日も森の入口までにしておくことにして、私たちは空へと飛んだ。最初は怖くて仕方がなかった飛行にも徐々に慣れつつある。意外と順応性があるらしい。


 ザムドは昨日教えた技の練習をすると言うので、私も遠慮なく土人形を作ってみることにする。本には〝まず作りたい人形の形をイメージしながら土に触れ、魔力を流して人形を作ってみましょう〟と記載されている。しかもそのページには、サンプルとしてのっぺりしたゴーレムのような人形の絵が書かれていた。直方体を組み合わせただけのその形状は安いボードゲームの駒のようだ。


 試しにこのまま作ってみよう。地面に左手を乗せる。


 ……さて、どれくらいの魔力を流せばいいんだろう? お試しだから適当でいっか、と思ったのが間違いだった。ディアドラの魔力がバカ高いということをうっかり忘れていたのだ。


 土に魔力を流すと、それは勢いよく膨張しながら大きくなり、決して低くはない森の木々の高さを遥かに超え、魔王城以上の大きさになってしまった。


「おー、なんだこれ、すっげー!」


 ザムドがはしゃぎながら飛んでいき、巨大ゴーレムの頭の周りをぐるぐると回り始める。巨大ゴーレムと比較するともはや虫みたいだ。


 危ないから降りてきなさいと声をかけようとしたけれど、遅かった。巨大ゴーレムはハエでも叩くみたいに腕を大きくスイングし、ザムドの体を軽く弾き飛ばしたのだ。


 ――勝手に動いちゃった!?


「ざ、ザムド!? 生きてる!?」


 落ちて気絶したザムドに慌てて回復魔法をかける。魔力値が高すぎて出力調整に苦戦し、肩に乗れるくらい小さいゴーレムを作り出せるようになる頃には、もうすっかりお昼ごはんの時間になっていた。



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