01-07 困った弟分(1)
翌朝、食事を終えて部屋に戻ると、窓の外でザムドが待っていた。
「ディアー、遊ぼうぜー!」
――またお前かっ!
よくもまあ飽きもせず、懲りもせず、毎朝毎朝誘いに来るものだ。ディアドラも私も結構な塩対応なのに。窓を開け放つと、身を乗り出してザムドの方に顔を寄せた。
「昨日の技、できるようになったんでしょうね?」
「まだ」
まだなのに来たの!? あっけらかんと答えるザムドに、もうツッコミを口にする気も起きない。だからさ、とザムドは続けた。
「たまには町に行こうぜ!」
「町に?」
そうだ、魔族にも町はある。ディアドラはザムドに誘われれば行く程度だったけれど、魔王城の近くにある町はそれなりに大きく、ナターシアの中では一番栄えている。
ただ、町に住んでいるのはあまり強くない魔族が多いから、ディアドラが町に行くと皆怯えてしまう。怯えられるのも嫌だしあまり行きたくはない。でも町に行けばいろいろな店がある。ディアドラが入ったことはないけれど、書店だってあったはずだ。
「行く」
行きたくない気持ちより、興味が勝った。
魔王城の西側にはそれなりの広さの町が存在している。町の中央付近の噴水前に降り立つと、さあ――っと人の波が引いていった。
揃って皆、私に畏怖の目を向けてくる。幼子を抱えて逃げて行く母親、物陰に隠れる子供、下がったところから様子を伺ってくる大人達。硬直しそうになる体をぎゅっと握りしめる――が。
「なあなあディア、あっちで何か食おうぜ!」
ザムドはいつも通り楽しげに、通りの向こうの屋台を指差した。
――お前ほんとメンタル強いな!?
この殺伐とした空気の中、よくそんなテンションを維持できるものだ。メンタルが強いのか単に馬鹿なのか判断しかねたけれど、いつもどおりすぎるザムドの様子にほっとしてしまったのも事実で。
「私、さっき朝ごはん食べたところなんだけど」
「俺もだけど?」
「いや、だから……もういいわかった、好きなの買ってきて」
「うん!」
困った弟分だわ、と私はつい笑ってしまった。
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