01-06 魔王になんかなりたくない(3)


「ディア、何かあったのか」


 夕食の時間、黙って食べ始めた私にお父様は聞いてきた。目の腫れが引いているのを確認してから食堂に来たから、見た目でバレているわけではないはずだ。


「……ううん、別に」


 お父様は何か言いたげに口を開いたけれど、しばらく待ってみてもその口が何かを問うてくることはなかった。


「ねえ、今のレベルってどれくらい?」


 お父様に視線を向ける。どうか高い数値でありますようにと願いながら。お父様は自身のステータスウインドウを表示すると、ふむと頷いてから言った。


「百二十六とあるな」


 レベル上限って普通、九十九じゃないの!?


 このゲームをやり込んでいたわけでもないし、聖女のレベルはクリアできるギリギリまでしか上げていなかったから知らなかった。いや、敵キャラだけは上限が違うという可能性もなくはない。


 どちらにせよ、ディアドラの八十五とは大きな開きがあることに胸をなでおろした。これだけ強さに差があるなら、ディアドラがお父様を倒せるようになるのはずっと先だろう。


「ところでディア。明日は仕事で城を離れるから、食事は一人で取りなさい」


「どこか行くの?」


「ああ。だが夜には戻る」


「そう」


 そういえばお父様は年に一度、定期的にどこかに出かけている。その日はいつも朝食、昼食と不在で、夕食までには帰ってくる。どこに行っているのかまではディアドラの記憶にもない。お父様が教えてくれることはなかったし、ディアドラも一度も聞かなかった。


 それ以外にもたまに不定期で食事に出てこない日もあるし、気にするほどのことではないんだろう。ないんだろうけれど、なぜだか少し不安になった。


「……気をつけて」


 ぽつりと呟くと、お父様は驚いたようにこちらを見た。またディアドラらしくない言動をしてしまったことに気がついて、慌てて「なんでもない!」と口に食事を放り込む。


「――ありがとう、ディア。気をつけるよ」


 お父様がそう言って微かに笑ったので、急に恥ずかしくなってしまい、「……どういたしまして」と、口をモゴモゴさせながら小声で答えるのだった。


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