01-06 魔王になんかなりたくない(2)
墓石にはそれぞれ、眠っている魔王の名前と生没年が刻まれている。本を見ながら、魔王として君臨していた時期と、墓石に刻まれた没年とを比較していった。
「……やっぱり」
本に書かれた魔王交代の年は、先代魔王の没年と一致している。魔王の交代は常に前の魔王の死によって起こるらしい。もちろんお父様の先代の魔王の墓もあった。見つけてしまった。
今ならわかる。今にも魔王になれそうだと言ったカリュディヒトスを、ザークシードが睨んだ訳も。魔王になる方法を聞いたときに、ジュリアスの視線が険しくなった訳も。理解していなかったのは私だけ。
――魔王になられる気は、おありでしょうか?
カリュディヒトスは。
あの男は。
たった十歳の子供に聞いたんだ。
〝父親を殺める気はあるか?〟――と。
それを楽しみにしているとさえ言ったんだ。
そしてゲームの中で魔王として登場していたディアドラは、きっとそうしたんだろう。あんなに優しくて娘思いの父親を、殺して魔王になったんだろう。
魔族は力が全て。弱き者は強き者に従う、そんな種族だ。魔族の価値観でいえば、カリュディヒトスの方が普通なのかもしれない。それに敵を倒すバトル漫画では、倒した敵が死ぬものもたくさんあった。RPGゲームだって大抵はそうだ。ここはゲームの世界なのだから、それが当たり前でも不思議じゃない。突然ディアドラになっていた時だって、魔王の娘なんて聖女が来たら倒されそうだと考えたじゃないか。あの時はまだ現実として捉えられていなかったけれど。
聖女伝説をプレイした時も、五天魔将は途中で抜けたジュリアスを除いて全員倒した。魔王も最後は塵になって消えた。それはザークシードのことも、ザムドのことも、ディアドラのことも、聖女という立場で全員殺したんだ、ってことじゃないの?
私はぺたんとその場に座り込んで俯いた。
「……ふ、ぅ……」
ぽたぽたと涙がこぼれて止まらない。感情がぐちゃぐちゃになってしまってよくわからない。
何が悲しいんだろう。お父様が先代魔王を殺したんだろうってこと? ディアドラがお父様を殺して魔王になったんだろうってこと? ゲームをプレイしていたとき、私は何の疑問も持たずに、コントローラーのボタンだけでザムドたちを殺していたんだ、ということ?
どれかはわからない。
もしかしたら全部かもしれない。
それらを辛いと思ってしまうほどに、私はこの世界を現実だと感じ始めているのだろう。
「やだ……そんなの」
私は手を握りしめる。
「そんなの、絶対いや!」
過去は変えられないけれど、お父様を倒して魔王になるのも、聖女に五天魔将達を倒されることも、どちらも嫌だ。だったらどうすればいいか、まではわからないけれど。
絶対に嫌だということだけは間違いないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます