01-05 狩りになんか行かない(2)
しばらく空腹に耐え、ようやく昼食の時間になったので、私は早足でダイニングに向かった。いつもより少し早く来てしまったせいか、まだ配膳中だ。使用人が私を見てさっと青ざめる。若干傷ついたけれど、これ以上怯えられないよう、できるだけ彼に注意を向けないようにして椅子に座った。
そんなことより今日のメニューは何だろう。いつもの固いパンと、鳥っぽい肉と、それからスープ、芋。相変わらずサラダやフルーツはなく、彩りが寂しい。そろそろフルーツを食べたくなってきた。
さっきまで眺めていた本によると、人間の国では私のよく知る野菜や果物が各地で生産されているようだった。でもディアドラが食べてきた食事にそれらが出てきたことはなく、肉やパンばかりだ。せいぜいキノコやピクルスが出るくらいで。私は視線を皿から外してお父様に向ける。
「ナターシアでは、野菜や果物はとれないの?」
「そうだな。魔素の力が強すぎるのか、フィオデルフィアの作物はなかなか育たぬ」
「そっかあ……」
成長期の子供はもう少しビタミンを取った方がいいんじゃないのかな。なんて考えてみたところで、ないものはない。ナターシアはいつも雲がかかっていて薄暗いし、近くの森も木の葉の色は緑ではなく毒々しい紫色をしている。作物が育つには太陽が必要だ。常に雲がかかっているような土地では難しいんだろう。
「そうしょげるな。今度カルラがこちらに来るときに、野菜か果物が手に入らないか聞いてやろう」
「カルラが手に入れてくれるの?」
首を傾げると、お父様は一つ頷いた。カルラというのは今の五天魔将の一人だけれど、滅多に姿を見かけない。ディアドラは興味がなかったようで、彼女はどこにいるのかと尋ねるようなことはしなかった。
「話していなかったかもしれないが、カルラにはフィオデルフィアで人間に扮して行商人をしてもらっている。こちらでは手に入らない作物などを定期的に流してもらっているのだ」
「ふうん……」
確かにナターシアで作物が育たないのであれば、いつも食事に出てくるパンも作れないはずだ。原材料の小麦粉はカルラが手に入れてくれているのかもしれない。でもそれはつまり、ナターシアの結界を抜けて出入りする手段がある、ということだ。
それはディアドラのような相手に言っていい話ではないのでは? と、一瞬思ったけれど、ナターシアでは手に入らないはずのものが定期的に供給されていることに気がつけば誰でもわかることだろう。それに心当たりもある。ゲームでヒロインがフィオデルフィアからナターシアに渡ってきた手段は、大陸を繋ぐ秘密の地下通路だった。それに書庫に飾られていた大きな地図は、人間の国や街だけが書かれていた。あれはカルラが手に入れた人間の地図なのかもしれない。
果物は日持ちしないものが多いから難しいだろうけれど、野菜の塩漬けか果物の砂糖漬けくらい手に入ったらいいなあ、なんて淡い期待を抱いてしまう。もしくは、もし可能なら、焼き菓子とか。あー、お菓子食べたい。
そんなことを考えていたら余計にお腹が空いてしまい、私はいただきますと言ってフォークを手に持った。
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