01-05 狩りになんか行かない(1)


 安心したらお腹がすいた。朝食は味がしなかったし、食べた気がしない。


 すごろくのあと、お父様とジュリアスは仕事があると言って出ていってしまったので、私も自室に戻って本を読むことにした。ジュリアスが持ってきてくれた本の一つを開く。各国の気候や特産物についての記載が並んでいて、余計に空腹を感じた。


「地理って、そうか、こういうのか……」


 これはこれで興味深いけれど、私が知りたかったのは各国の関係性とかそういうのだ。地理とは言わないのかな? じゃあ何ていう学問なんだろう?


 この際ジュリアスに直接聞いた方が早いかもしれないけれど、十歳のディアドラが突然そんなことを知りたがったら怪しい気がする。いや、本を求めた時点で怪しいのだけれど、怪しさの上塗りは避けたい。今すぐ知らないと死ぬわけでもないし、どんな国があるかがざっとわかっただけでよしとしよう。


 これ以上お腹が空いても困るので、私は本を閉じた。他のことを考えよう。ひとまずお父様とジュリアスから不審がられてはいないらしい、と安心したところで、まだ乗り切らなければならないことはある。


 そう、例えば、


「ディア、魔獣狩りに行こうぜー」


 昨日に引き続き魔獣狩りに誘いに来るザムドへの対応とか。


 窓の外で手を振るザムドに視線を向けると、はあとため息をつく。何回か断った程度でめげる相手ではなさそうだけれど、どうしたら諦めてくれるんだろう。窓に近づいてそれを開ける。


「嫌。飽きたって言ったでしょ」


「えー、でも暇だろ? レベル上げにもなるしさ」


「これ以上上げなくても、私は十分強いよ」


 私のステータスウィンドウを出して見せると、ザムドはひゅうと口笛を鳴らした。その反応に満足し、ウインドウを閉じる。


「と、いうわけで、行かない。どうしても狩りたいなら一人で行きなさいよ」


「えー、でも、ディアと一緒じゃなきゃダメだって……」


「なんでよ。あんたなら、一人でも狩れるでしょ?」


 なんて言ったって未来の魔族ナンバーツーなのだから、とは心の中で付け足しておく。今でもディアドラに次ぐ実力はあるはずだ。


 ザムドはしばらく考えていたが、そのうち諦めたのか「明日は行こうなー」と言いながら去っていった。また明日誘いに来る気なのかと気が重くなったけれど、今日は行かないことにしたようだ。明日また来たところで行く気はないけど。


 考えたところで仕方がないのでいったん問題を棚上げし、私はソファーに横になりながら歴史の本を開く。ああスナック菓子でも食べたいなあ、と考えてしまい、ついにお腹がぐうと鳴った。



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