01-04 最推しは現魔王(1)


 夕食の時間になってダイニングに行くと、既に現魔王は席についていた。配膳中の使用人がぎょっとしたように私を見る。確かにディアドラは呼ばれるまで食事に出てこなかったけれど、そんなに怯えないでほしい。黙って席に座ると、現魔王がじっとこちらを見つめてきた。


 な、なんだろう。なんでだろう。


 エメラルドのような双眸そうぼうには落ち着いた光が宿っているし、星空を映したような紺色の髪も輝いて見える。


 ――あ、あれ?


 元々好みだったけど、最初に彼を目にした時よりキラキラして見える。誰がなんと言おうと格好いい。


 ジュリアスの現魔王語りを聞いたせいに違いない。この感覚はあれだ。友達の萌え語りを聞いていたら、いつの間にか同じ作品にハマっていた時のやつだ。


 私は現魔王をじっと見つめた。

 こんな人が父親なんて最高すぎる。

 ぜひ呼びたい――お父様と。


 さすがに口に出す勇気はないけれど、心の中でそう呼ぶくらいはいいよね。この体は彼の娘なのだし。現魔王――いや、お父様がこちらを見ながら静かに言う。


「今日はザークシードと手合わせをしたそうだな」


「うん、まあ」


 どうして知っているのだろうという疑問は、ジュリアスを思い出した時点で引っ込めた。


「たまには私とも手合わせしてみるか?」


「!?」


 なんでよ!?


 顔を強ばらせ、何度も首を横に振る。


 意味がわからない。魔族ってなんでこう、ことあるごとに戦おうとするんだろう? 魔族は全員脳筋なの? しかも魔王を相手にするなんて、下手をすれば死ぬ。下手をしなくても死ぬ。よくて大怪我だ。冗談じゃない。


「そうか……」


 ではやめておこう、と言ったお父様は心なしか残念そうだった。心が若干痛まないでもなかったけれど、戦うのだけは全力で拒否させてほしい。私は平和に暮らしたい。


「そ、それよりは、ボードゲームとかで遊んでくれた方が嬉しいかなー、なんて……」


 なんとか話をそらそうと、適当に言ってみる。するとお父様の背後に花が咲いた。……ような、気がした。表情は全く変わっていないのに、まるでお父様の周りだけ明るくなったように感じて、目をこすってみる。再び目を開けた時には何の変化もなかった。


 気のせいだ、たぶん。


「あの、冗談だか――」


「いいだろう。食後に応接室にでも行こう」


 えっ、いいの!?


 適当に口から出ただけで本気ではなかったのだけれど、お父様は既にベルで使用人を呼び、食後にお茶を応接室に運ぶよう伝えている。本当に遊んでくれる気であるらしい。お茶まで頼まれてしまった手前、冗談でしたと引っ込める勇気もなく、私は目をそらすしかない。


 でもお父様とボードゲーム、というのも悪くないのでは? お父様は見るからに賢そうだから勝てる気はまるでしないけれど、スマホもテレビもなくて退屈だったし、平和に遊べるなら嬉しい。


 この世界のボードゲームって何があるのかなと考え始めたところで、


「ところで、その〝ぼーどげーむ〟というのは一体何だ?」


 というお父様の言葉に、頭を抱えたい気持ちになるのだった。



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