過去




「凱旋皇が死ぬ…だと?」








ラグナロク魔人国 西区 商店街


「シッ!……声がでかいのよアンタ

小声ってもんがあるでしょ」


キョロキョロ



白銀の髪をした女は小声で話した後

周りを見渡して、誰も居ないことにホッとする




私は、白黒女と共に王城へ向かっている途中

深夜で、店は閉まり、人一人居ないので

つい声高になってしまった……



「それで……どういうことだ……?

私は凱旋皇と何回かは王として会ったことはあるが

……人間の中であれほど身体能力の高い男は

人類千年の中で、あの者に匹敵する人間は

誰一人居ないはずだ……!」


国は鎖国状態にあるが

私個人は秘密裏で他国の者と関わっている


ヴァーズ凱旋皇もそのうちの一人


「……ちょうど良いわ。あれを見て」


そうすると女は

ここから見て左側のテレビ屋にある

液晶テレビを指差す


私は、差されたテレビを見た


そこでは、アナウンサーが真剣な面持ちで

ニュースを読んでいた






「人類時間午後13時30分

統制の塔より、人類代表選手兼騎士軍大佐の

黒魔術師死亡について

ヴァーズ凱旋皇よりお話がありました」


画面が切り替わり、ヴァーズ凱旋皇が出てくる


「今回、魔術師代表である

黒魔術師の件についてだが……

黒魔術師は死んだ。

実際に関係者と会い、この目で確認した」


「その後、記者達の質問が来ますが……」


アナウンサーが言った


「少しは黙ることを覚えないか。

マスゴミが……」


「と、ヴァーズ凱旋皇は、憤怒の声をあげました。

この後少し経ちまして、犯人や今後の予定も

話していました」



「この件は、他殺の可能性が非常に高い

だが……その加害者は魔人の可能性がある

私は近々、魔人の国へと赴くことにした

……魔人の王と、この件について話し合おう」



「ということで、人類の魔術師代表であると共に

ヴァーズ凱旋皇の直属の兵士だったのですが

今回、亡くなられたとのことで…………」


「……あの者は、相変わらず

短気なものだ…………」


「まぁ、それはどうでも良くて…………」













「それにしても、あの悍ましい人間が……

そうだったのか」


「あっちの国の王様が

あなたに会いに行くんだって。

それで……アンタはどう思ってるの?」


「……何に対してだ?」


「……アンタ、この事どう思ってるの?

まさか、"殺さなければ死んでいた"

なんて、簡単に終わらせるつもりだった?」


「……」


彼女は魔人を睨んだ後

一つ、ため息をしたら、怒るように言った


「それとも、"あんな怖〜い人が

一国の王の家臣だったなんて

知りませんでした〜"……とか?

まさか貴方程の人が、そんなことないわよね?」


「……」






「……はぁ、その勝手な行動で

どれだけの被害が出ると思ってるの?

……あの時、戦わないという選択とか

きっと"正解"が、あったはず……

なのに………………」


「……そうか…お前は…………」


「?」


「…あの者と、話し合いで済めば

それが理想だったのかもしれぬな……

だが……一つだけ言わせてもらえないだろうか?

別に、否定をする訳じゃないが

かと言って開き直りの道化師にも

なるつもりはないが……」


「……言ってみなさいよ」








「……突然だが、自分の今についてどう思う…?」


「自分の……?

まぁ、ちょっと神様試練与えすぎだけど

今までよく生きてこられたと思ってるわ。」


「……この世界、人生に、"正解"があると思うか?」


「……何?説教でもするの?」


「……魔人の考えは、人間のそれとは

少し違うものでな…………

言っておく方が良いと思ったのだ

話半分の気で聞いていても構わん。」










「……人に"正しさ"を求めるな。

その正しさは、自分ではない

不特定多数の他人によって作られた"エゴ"だ

……そしてそのエゴは、数は少なくなるが

"正しい"とは思わない人もいるだろう。」


「……誰かの受け売りかしら?」


「フッ……まぁそう言うな

最後まで聞け…………」




白魔王は、続けるように言った


「その"正しさ"は結局、誰の為にある?何の為に?

"ルール"を守る人の為か?

それとも、生き方に美しいと感じる為か?

……それは、長く生きてきた私にもわからん……

しかし、これだけは言える……!」



「昔居た天才の真似事で出来ているこの世界で!

"正解"など求めるな……そんなものは存在せん……!

生きているという結果が残った今がある……

この今こそ、"至上"の物と言えよう……!!」


「……その魔人の

今が最高の状態で、別の手段をとったらダメだった

ていう"自己暗示"の考え方、

人間育ちなもので、理解し難いわね……」


「これは私の"先生"の言葉だ

私相手に否定をしようとしても意味はない……

しかし、

私は先生に育てられ、考え方が似たからか

それとも、約1000年生きているからか……

分かる気がするのだ。

人間の

"正しさだけを追い求める合理主義の同調圧力"

という物が、どれだけ"滑稽"なものかを…な」



……………………




「この考え方の違いが、語っているな

人類、魔人類を別ける"壁"があることを……」


と、白魔王は何かを考えている顔をして言った



「この壁は、互いが握手をするのに厄介なものだ

人間と魔人の歴史、経験、法や思考回路

この壁は、その全てを"違い"で出来ている……

もし、戦争が起こらない……

結果戦争にはならなかったとしても……

この壁が、互いの関係に

亀裂を齎すと、私は思う……」


「……いっそ全種族は、ぶつかり合うべきだと?」


「分からない……が

今のこの世界で……皆が望んでいるのは

絶対に楽しい事のはず……だが

皆望むように、苦しい道へと進んでいくのだ……

なぜ人々の幸せは

"犠牲が無ければ成立しない"のだろうか……

例えそれが、他の人だろうと……」


と、白魔王は頭を抱えた


「……この世界の真理

なんてことを言う気はさらさら無いけど

そんな悲しいことが本当のことなのだから

何かが犠牲になる苦しい道に進むのだと

アタシは思うわ……」
















「……ここからは、過去の話じゃなくて

"未来"の話をするわ。」


「……よろしく、頼む」


私は、切り替えるように言った


「帰ったらアンタの秘書から

話が来ると思うけど……

1週間後、凱旋皇は無理矢理

アンタに会いに行くわ。

だけど、本来のアンタは拒否した。

それは何故か……アンタが一番分かるわね?」


「……」


「その結果、凱旋皇は一人で

アンタの軍を蹴散らして進んで行った

その時、アンタの許可は無かったけれど

軍は凱旋皇を殺した……」


「……何?」


「……と、着いたわね。

続きは、城に入ってから説明しましょう……」


「……」


話に集中していて気付かなかったが

いつのまにか、着いてしまった


白色の石で作り上げられたこの城は

太古の昔有ったとされる、

バッキンガム宮殿なる物がモチーフにされたと言う






……一時色々と言ったが、私はこの事に関して

今後、どのようなことをすれば良いだろうか……?


しかし、焦っては駄目だ

考えは相容れなかろうと、この女との話は

まだ終わっていない

それが終わるまでは、客人としてもてなすとしよう



……………………
















統制の塔



「……へっくしょん!!」


「どうした?」


「いや……なんかさ

急に寒気が来て……」


「そんなことより

ポテチないのだわ?」


「……ポテチなら、あの戸棚にある」


凱旋皇は、戸棚を指差して言った


「わーい!なのだわ!!」


シュンッ!!


そうすると、カラスの方へ

凱旋皇は高速で移動し、顔を近づける


「どうしたんだ?」


「これから真剣な話をするものでな

終わったら来るので

廊下であの少女と遊んであげてくれないか…?」


と、小声で言う


「はぁ……アンタの頼みなら断れねぇな……」




そうしてカラスは少女を連れて行った……

少女は嫌そうにしていたが

恐らくカラスが上手いこと言ったのであろう




「別に、エリックなら

俺が言えばあの女の子を連れて

行ってくれそうだけど……」


「あのカラスは昔から子供が嫌いでね。

私なら直ぐに動いてくれると思ったのだよ。」


そうした後、青年は真っ直ぐな目でこちらを見る


「改めて……話、してくれますか」


「当然だとも。はてさて、何から話そうか……

あの者との出会いから話そうか……」
















そこは、東方にある第六師団拠点……




ドーーン!!


ガシャーーン!!


遠くから破壊音や爆発音がする

あの時は、確か15年程前のこと


それは、国家転覆を狙う反社会勢力による

紛争の鎮圧に向かった時……






「ここは……地獄か……?」


一人の兵士が言った

敵の色撃は、それ程までに強力なもので

死体がゴロゴロ転がっている…!!


「ヴァーズ司令官殿!!ここから10時方向先に

援軍を求める隊があります!!」


「それなら…第三遊撃隊は精鋭部隊が来たあと

加勢しろ、空いた所へは……私が出る!

"ボーン少将"、教えた事を覚えているな!

後は任せる!!」


「えぇ!?そりゃ無いって!!」


「貴様はまだ若い

今のうちに実戦経験を積め!

精鋭部隊は私と共に

各遊撃隊と合流した後、鎮圧し巡る!」


ハッ!!




私は当時42歳で、中将にまでなっていたが

私自身も戦えるので

苦戦している隊があれば

そこへ行くような、戦う司令官だった


……そう、苦戦していたのだ

編成された軍隊は、最低限の戦力での

白兵戦ということで、苦戦は必至だった


他の場所でも反乱が起こっていて

各中将、大将も向かう程のものなのだ






ボガァ!!


「どうしたぁぁぁぁ!!

てめぇらはこの程度かぁ!!」


私は精鋭部隊を率いて、隊長として戦っていた……




そうしている時だった


「ヴァーズ隊長!!

辺りは制圧しました!!」


「よし!次は……」


次の指示を出す……その瞬間

視界の内に、黒い塊のような物が見える


「……正面に見える

あの黒いローブの男は…!?」


「?……正体不明!!

敵かどうかわかりませんが……」


「ならば!!」


私は直ぐに飛び出して、その者を倒そうとした






「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


ドンッ……


「……」


「……!?」

(私の攻撃を避けた……!?)


その人物に、体を捻り、右腕で渾身の一撃を放ったが

彼は後ろに下り、拳を突き出すより速く動いた!


辺には、空を押し潰すような打撃音が鳴る



「クッ!」


スタタッ!


私は直ぐさま15メートルの間合いを取った


「隊長!?」


「下がっていろ……奴は強い!!」


私は集まった精鋭部隊を下がらせた


「……」


「貴様は……そこら辺の兵じゃ

物足りないだろう…?」


…………………………


その人物は、異様なまでに静かだった

まるで、何か別のことを考えるのに夢中で

目に見える全ては見えていないような……





ヒューー


ダン!!


(来る……!!)


風が鳴る

それと共に火蓋が切られた

黒いフードの男は、

全速力でこちらに近づいてきた!


しかし……


スタタタタタッ


「隊長ぉぉぉぉ!!!」


「しまった!?」


「終わりだぁぁぁぁぁ!!」


後ろから何者かがナイフを持って近づいてくる…!!


ローブの男に集中するあまり

まだ生きていた残党に気づかず

挟み撃ちにされてしまった


「クッ……」


私は死を覚悟したが

最後まで振り向かず、ローブの男の方を向いた


「来るなら来い……!」


私は、二人一辺に相手をしようとした……





サッ


「……何!?」


ドゴォォォン!!


「クハッ!?」


ヒューーー


ドサッ……


気づけば辺に凄惨とも思える打撃音が鳴り響く


ローブの男は、私を通り過ぎ

後ろから来た残党を吹き飛ばしたのだ




「……俺が敵だと思ったか……?」


「貴様は……!?」


私は動揺し、何が何だかわからなくなった



「……俺は…………………………

"黒魔術師"……………そう、呼んでくれ」


突然現れた純黒のローブの男に

呆気を取られていた時……


「隊長!大丈夫ですか!!」


「あ、ああ……だが、引いていろと言ったはずだ

なぜ近づいて……?」


「……伝令です!!

敵が突然退いていっている様子で……」


「……何?」


敵が退いているだと……?

敵が優勢だったのに、退く訳がない……




「………………おい」


黒魔術師が呼ぶ


私は振り向いた


「…貴様、何か知っているのか」


そうすると黒魔術師は

服の内側に、何か隠し持っているのか

何かを取り出そうとしている


サッ


「……!?」


黒魔術師は、何者かの首を取り出した


「……紛争は終わった

司令官並びに、幹部達は残さず

俺が殺した……この首は幹部の一人の物

一匹小蝿は逃したから、そいつが仲間達に連絡して

退却するよう言ったんだろう…………」


「!?」




突如として現れたその奇妙なローブ男は

何の目的かは今もわからないが

たった一人で紛争を終わらせたのだ




ここから黒魔術師と名乗る男は

急速に武勲を立てていった


ある日は森で

ある日は海で


そうしていった後に、軍にスカウトされ

私の隊で活躍していったのは

今はもう懐かしい話だ…………





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