本物と凱旋皇



ガラガラ


俺は早速、店の扉を開けて外へ出た


その途端……


「おっ、あれリーファちゃんじゃないか!!」


「あらやだ!本当だわ!!」


「……?」


商店街の店員達が、こちら……というより

少女に視線を送っている


「あ、魚売りのおじさんに

コロッケ屋のおばちゃん!!

珍しいわね、やってるの?」


「そりゃそうよ

こっちはリーファちゃんの為にやってるのよ!!

ほらこれ、超A5ランク牛肉のコロッケ!!」


「良いの!?」


(超A5……!?)


俺は、少女が一万円のコロッケをタダで渡すのをみて

すごく嫉妬した


「おいおい、抜け駆けは良くないぜ?

こっちは本マグロ丸ごとだい!!」


「んーこれから出かけるから

それはいらない……」


「ガーン……」


「全く、魚屋の旦那さんは

いつも通り商売下手ねぇ」


そうすると、次から次へと

店員の人達が集まってくる


「あれ、今年の魔術師二位のリーファだ!!」


「あの過保護のじじいはいねぇ!!

俺らも行くぞ!!」


少女がいる場所に、沢山の人が集まってきた


皆笑顔で、あっという間に集団が出来た


「え……!?まだ来るの!?」


俺もそれに巻き込まれて

何が何だか分からなかった



「こっち……!」


「え、ちょ、ちょ!?」


俺は混乱の中、集団からスルスルと抜け出してきた

少女に手を引いてもらい

そこから抜け出した……




タタタタッ


「はぁ……ここならもう大丈夫

父さんが居ない時はあんな風に

皆お祭り騒ぎでこっちに近づいてきて

物をくれるんだけど……勢いが凄すぎるのだわ……」


「……愛されてるんだね」


「うーん……街の皆には

前のように、普通に接してほしいのだわ

前、泥棒をとっ捕まえた時からあーなのよ……」


「そうなんだ。」


人から愛されることは良いことだと思ってるけど

愛されてる人が多すぎるのも困りごとなのか……


贅沢な悩みを持ってるなぁ。

これが……俺と真の代表の違い、か……




バサバサッ


「おーい、置いてくなよな。」


「あ、エリック」


「合流した所で、早く行きましょ!!」


「……そうだね」



そうして、"本物"との違いを確認したら、

友達すら居ない俺は

小さな少女相手に、何故か嫉妬してしまった


そんな、スターのスの字もない俺は

商店街を後にした………………







「ここが、統制の塔…!!」


下に続く塔の周りに、下が見えない程の穴がある

俺は塔と穴の間を繋ぐ、長ーい橋の上に立っている


「はよ行くぞー!」


「う、うん」


少女とカラスは、足を止めずに進んでいっている


俺は戸惑いながらも、深淵へと続く塔の下へ

移動するのだった……







「ここは厄介な人間も居る……

黒魔術師なんて優しい方だ。

目はあまり合わせない方が良いぜ」


カラスが小声で言う


「……」


俺は無言で頷く


「何をしてるのだわ?

堂々としてれば

誰も喧嘩なんて仕掛けてこないのだわ!」


「気楽で良いよな、お前……」


カラスは呆れるように言った……




統制の塔 一階 円始の間




塔の中は

下に直径40メートルの円状の空間広がっていて

地面には赤いジュウタンが敷かれていて

シャンデリアが天井にあり

タペストリもある


壁には高級そうな石材も使われていて

それはまるで城内のような雰囲気で

真ん中には噴水がある



下に降りるため、階段を下る



下った先、そこには沢山の人が居た

さっき通った商店街にあるような

高級服を着たような人も居れば

粗末な服を着た人も居た


カメラを持った人間も居た

何かあるのだろうか……


「ねぇ…何か起きるの?」


「こんな場所に人が沢山居るなんて

珍しいの三文字に尽きる……

そんでマスコミも居るってことは……」



ガコンガコン……ガチャン!!


綺麗なエレベーターから数人の男が出てきた


カシャカシャ!


数人がSPのようなスーツ姿で

その中心に居たのは

紫色のスーツを着た

いかにも50代の渋い顔で

偉そうな感じのおじさんだった



「すみません、通して下さい!

"ヴァーズ・オールド凱旋皇"!!

黒魔術師死亡の件について何か一言お願いします」


と、マスコミ達が押し寄せる中

スーツ姿の男達は立ち塞がる


「あれよ!!」


「あれが……統率者?」


「ああ、別名"統率者"

全ての軍人の中でトップの存在で

戦になれば戦略を練り

軍だけでなく、人類を纏める力を持った彼のことを

大衆が勝利の化身、"凱旋皇"として

実質的な王と認めた人物だ。」


「へぇ〜!」




50代のおじさんが口を開く


「その件について

あそこにある噴水で話したいのだがね

君達が邪魔をするので

なかなか話せずにいるのだよ」


声も渋く、ガタイも良かったので

理想的な歳のとり方だと思った


報道陣が、すぐさま後ろに下がった


カタ カタ


高級な靴で歩き

写真を撮る音が鳴り止まない


「これって……」


「恐らく、アイツ……黒魔術師のことだろうな」


「!!」





紫のおじさんが噴水の前まで来た


黒魔術師との対人関係があったという統率者は

何を言うのだろう……



「さて……」


カシャカシャ……


音が静まった

たった一言で、ここまで静かになるものだろうか


「今回、魔術師代表である

黒魔術師の件についてだが……」


ゴクリ



「黒魔術師は死亡した。

実際に関係者と会い、死体はこの目で確認した」


ザワザワ


「それはどういうことですか!!

どういった経緯で死亡したのでしょう!!

噂によれば他者に殺されたということも

耳にしますよ!!」


ザワザワザワ


「エリック……普通はまず隠蔽とかしないの?」


「シッ、黙ってろ」


「どうなってるんですか!!

人々に夢を与える代表の一人が死んだのですよ!!

これは異常なことです!!!」


「そうです!!

責任者を出して下さい!!!」


記者達は声を荒げて言う


「……少しは黙ることを覚えないか。

マスゴミが……」



!!!







記者達に、"戦慄"が走る

たった一人の憤慨に

大勢が、戦慄を走らせている


そのたった一人は

声が震えている

体が震えている


そして、塔を震えさせた


記者達の心臓の奥底にある、臆病な性格が

震えている




「……良いか?

黒魔術師は私の側近の一人

この私が、一番心憂いているのを解らないか……

私は統率する者以前に、一人の男だ

次、許可を取らずに発言した者は、殺すぞ…!」


…………




俺はその独裁者のような男のことを

変だなと思った


(……なんだあれ

王というより、暴君じゃないか)


俺は小声で言う


(そうだ、それがあいつのやり方

あいつは王ではなく"統率者"、人類を統率する者

王のような華はねぇ

自分の力だけでのし上がってきた

一人の軍人に過ぎない…が

その力で、多くの人間を率いた彼の言葉は"重い")


(恐ろしそうな人だな……これから会うのに……)


(か、カッコいい……!!)


と、少女は目を輝かせて言う


(そう……?)




一人の男は、周りが静かになったのを見て

話を再開する


「……少しは解ったようだな、話を戻す

何処かの記者が言ったな、「責任者を出せ」と

この件、全責任は私にある

何か文句はあるか…?」


「ひ、ひぃぃ」


ダッダッダッ


一人の記者が逃げ出した


多分、その記者なんだろうな

とんだ災難だったね……生きて帰れるのを祈るよ


(やっちゃえー!なのだわ!)


(うん、何を?)



「この件は、他殺の可能性が非常に高い

だが……その加害者は魔人の可能性がある

私は近々、魔人の国へと赴くことにした

……魔人の王と、この件について話し合おう」


!!


(今、魔人の王と話すって……!?)


(馬鹿、もう少しトーン抑えて言え

これは厄介なことになったな……)


加害者である魔人の王と話し合う

それはつまり、統率者の激怒を買うことになる

あの統率者なんだ、何か起こるに違いない

最悪、大戦争になりかねない……!!


「1ヶ月後の世界大会だが…

大会委員会の人間と要相談ってところだ。

少しの間、延期する可能性の方が高いがな」




「そう言う訳で、失礼しよう」


カタ カタ カタ


「あ、ちょっと待って!!」


つい、言ってしまった


焦って一声を放った先は地獄だった


「……次に許可なく発言した者は

殺すと言ったのだが……?」


ブワッッ!


統率者がこちらを振り向くと

風圧がここまで届いてきた


「あ……」


その凄みに耐えられず

つい、無言にやってしまった……


「おーい、ヴァーズさん」


「!?」


(やばい!殺されるッ!?)


カラスが統率者に悠長な態度で話しかける


俺はその姿に、殺されると覚悟した……!!


「おお、これはこれは

前魔術師代表と、何時ぞやのカラスではないか!

ということは、隣の君が……!」


「……え?」


「これは失礼した、SPもこの者達を通したまえ」


ハッ!


そう言うとSPが、俺に道を作った


「お、おぉ……?」


「やったぁ!!

あのおじさんと話せるの!?」


「このちっさい奴は通さなくて良いぞー」


「ダメ!ぜっっったい通して!!」


「いやはや、今回は騒がしいものだな。」


統率者が、初めて笑った


俺は困惑して、状況を頭の中で把握しようとする


(カラスって、統率者とそんなに良い関係なのか…?

だが、何が何だろうと関係ない

俺は統率者に話を聞きにきた

それは変わらない…!)


「早く行こうぜ!!」


カラスがにこやかな笑顔で言う


「……行こう!!」


カラスに導かれるように

俺はSPに囲まれたレッドカーペットの道を歩き

統率者のいるエレベーターに向かうのだった……






「SP達は、このエレベーターから誰も来ないよう

暫くの間、絶対に通すことなきように……」


ハッ!


(こんな大柄な人達に、この威圧感……

やっぱこえぇ…………)



「さて…カガミ代表、スカーレット選手

行くとしようか」


「はーい!!」


「は……はい」


怖すぎて一言ぐらいしか喋れない

それほどまでに、存在が圧倒的なもので

この人のことを、畏敬の念を込めてこう言おう


"帝王"そのものだと……


ピッ ヴウーン


統率者がB10回のボタンを押し

エレベーターが動いた


「先程はすまなかった

まさか、黒魔術師が選んだのが

まさか君とは思わなんだ」


「ハハッ、オーラ無いですよね

ハハッ、ハハハッ」


「何を笑うことがある?

君は誇るべきだろう」


「はっ、ハイッッッ」


(そう力むことはないはずだが……)


「ヴァーズさん、少しは自覚を持て……」


「……?」




俺は耐えられず、右を向くと……


「ワクワク…!」


少女は変わらず、楽しんでいるように見える


(その楽観的な考えを、持っていればなぁ……)


カラスは呆れるように言った


ポーン


エレベーターが俺を救ってくれた

思ったより降るスピードが早く、すぐ着いた



統制の塔 地下10階 深淵の間




周りは地下一階と同じ雰囲気だが

広々とはしてなく、廊下が続いていた


「執務室へ案内しよう

そこならゆっくりと話せることだろう」



スタスタ


「ここが、執務室だ」


ガチャ


「!」


統率者がドアを開く



そこには、さっき居た一階と比べると

意外にも、俺でも落ち着けるような場所だった


椅子も机も、普通のサラリーマンが使うような

見慣れてる物ばかりだった


「ワーイ!!」


少女は、一目散に奥にある椅子に座った


「どんなものがあるかと思ったら

結構、庶民的なんですね」


と、俺はさっきとの高級度の違いにビックリした


「私は昔から欲が無くてね

実用性が高いものしか買わないのだよ」


統率者は、笑うように言った




「さて……何から話そうか

私はお喋りは苦手なものでね……

好きな話題を言ってくれて構わんよ」


と、統率者は苦笑いで言った


「なら……!」


俺は自分のペースで話せてもらえると思って

質問をすることにした


「黒魔術師は、どういう人物……

だったんですか?」


「……それは彼の性格の話か?」


「全部です。代表の彼、普段の彼

それにこれまでのこと。全部。」


「君は欲張りな男だね。

そう……彼と会ったのは13年ほど

前のことだったか……」




クルクルッ


「え、これ回るの!?」


ズコッ


「ハハハ、若いのはいつだって元気をくれるな」


統率者は笑う


真剣な話をしている中

白い少女は変わらず、椅子を回していた……

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