人間の街
「おい、起きろ!!」
「ふぁぁ……何だよエリックか…………」
ここは梅桜病院の寝室
一応の検査は受け
今は安静にしている所だ
――照らす、照らす、照らす
太陽が明るい
外からはもう鶏の声は聞こえない
太陽は真上に位置し、自分達を見守っている
その真下にある真っ白な部屋に
真っ黒な動物が一匹
パイプ椅子の上に立っている……
「寝起きで悪いんだが……屋上に来てくれ
話があるんだ」
エリックは焦っている様子で
それが何なのかは分からないが
ひとまず行ってみることにした
カチャッ
俺は、壁に立ててあった錆びた剣を背に
歩を進める……
「よし……誰も居ないな」
「そんなに焦って、一体どうしたって言うんだ?」
「バン、お前黒魔術師が死んだって
言っちまったのか?」
と、カラスは早口で言った
「いや……一言も言ってないけど………」
「そうか……それがな、なぜかは分からないが
黒魔術師が死んだって情報が広まってんだ……!」
「!?」
それは唐突の衝撃で言葉を失った
黒魔術師の死体がある場所には
俺とカラス達しか行かなかったはずだ……
その事実を知り、二人は
何故情報が広まったのかの論じ合う……
「他のカラスが広めた……とか?」
「それは絶対にない
黒魔術師の野郎、意外と重いから
全員で運んだんだ
そんで統率者以外には皆会わなかった」
「それじゃ……俺達以外に
目撃した人が居たのか……?」
「白魔王という単語は聞かなかった
恐らく、戦った後に見られたんだろう……
それならあの代表達か……?
だが……知った素ぶりもしなかったな…………」
「あの二人に限ってそれを黙るなんてことも
しないはずだし……う〜ん…………」
「閃いたぁぁぁぁぁぁぁ」
「うぇっ!?」
結論は出なかった、が
エリックに考えがあるようだ
「……一度、統率者会いに行こう
あの人の情報網なら、何かわかるかもしれねぇ」
と、カラスは囀った
「俺なんかが会って良いのか?」
統率者は、実質的に人類の"王"だ
その王に謁見出来るのかと思うと
胸が高鳴ってくる
「それは統率者が決めることだ。
だが、多分いいと思うぜ?
実際、お前に会いたがってもいた。」
「統率者が…?」
それは意外だ
俺にそんな需要があったのだろうか…?
「ま、会いたがると言っても
お前の能力目当てで
お前自体はそんなじゃねぇけどな」
「余計なことを言ってくれる」
「へっ、こちとら悪口と陰口は
一級品で有名だぜ?」
「嫌だなぁ」
話がひと段落し
統率者が居るという場所へ向かうことにした
スタスタ
梅桜病院の廊下を歩く
カラスは左肩に止まって前を見る
病院の窓の外は、木が茂っていて
すごく落ち着く雰囲気だった
「それはそうと、統率者の居る場所は近いの?」
そう言うとカラスはこっちに顔を向けた
「そうか、知らねぇか
梅桜病院は代表が怪我した時に運ばれる場所だ
そして、ここは統率者の居る
"統制の地下塔"の真上にある
そこに繋がるエレベーターが……あった!」
バサバサ
カラスは左肩から飛び
一つだけ、異質なエレベーターのある場所へ向かう
「何だあれ……?」
「B1F」と書かれた藍色の扉が……というより
シェルターのような扉がある
微かに白い光を放っていて、神々しいと同時に
恐ろしささえも感じた
「これは、地下塔に繋がるエレベーターで
全ての地域に張り巡らされている
ここからは真下に行くだけで近いが……
ま、とりあえず乗ってみ」
「えれ、べー……?」
バサッ
扉の隣にあるボタンを、カラスが器用に翼で押した
「少し待ってろ」
カラスがそう言うから
俺は首をながーくして待った
ポーン……
「何だこの音…?」
一分ほど待つと
謎の音が扉の方から聞こえた
その時、カラスが笑った気がした
「"来た"ってことだ…………
この光景は、驚くと思うぜ!!」
ガチャン ガラガラ……
「!!」
藍色の扉が上に開いた
その扉の向こうには、大きな空間が広がっていた
エレベーターの下には
下に無限に伸びている塔と
ハイテクノロジーな街が広がっていた!!
「ここは、上流階級の人間達が住む街
あの奥に見える地下塔に統率者がいる
とりあえず乗ろうぜ」
「う、うん……」
俺は戸惑いを隠せないが
それと同時に"興奮"さえも感じる
全く知らない世界に
田舎者は、まるで鳥が初めて羽ばたくような
感動さえも感じて、青年は足を進める…………
ガチャ ウウーン……
扉が閉まった後
目の前の見下ろしてる背景が、下に移動した
エレベーターが動いた
「うおっ、動いた!?」
「これから下に移動する
準備はいいか?」
「そういえば、医者の人とか
あの代表のおじさん達は良いの?」
「ま、すぐ帰ってくるし良いだろ
そんな余計な荷はゴミ箱にでも置いていけ
さっさと行くぞ!!」
バシッ
カラスは、俺の頭をドツク
エレベーターは、関係なく下に降りていった
…………
無音。しかし景色は移り変わる
その広大で、暗い塔の下町は
現代さをあまりにも感じなく
藍色と灰色の建物ばかりで
天井からは小さな太陽が
ふらり、ふらりと浮いていては
建物の周りに、人がわんさか騒いで歩いていた
風の音さえも感じないそのエレベーターの中で
透明な壁を覗き見る
その空間の中で、冷や風に晒されながら
下へ、下へと降りて行く
ポーン……
そうして新天地へと降り立った……
ガラガラ ガチャン!
「着いたぜ?」
カラスは、謎に自慢げに言う
「おお……」
俺は素直に驚いた
あちこちに透明で
巨大なパイプが張り巡らされている
恐らく各地域から来れるように作られたようだ
「本来はお前のような平民じゃ来れない場所だ
だけど、平民と言っても
もうお前は"人類代表の一人"
その資格ぐらいはあるだろーな」
「資格って……嫌な言い方だなぁ」
俺の場違い感はおいといて
綺麗な街並みだな〜と、感傷に浸る
スタッスタッスタッ
俺は堂々と前を見て、歩き出した
「お、あれ…商店街かな」
暫く歩いていたら
売店が羅列し集まった場所が見えた
恐らく商店街だろう
「せっかくだし、見てみようぜ!」
タッタッ
俺は小走りでそこへ行く
看板が付いているアーチを通り抜けた
売店はすぐ隣だ
「なんか良いものないかな〜」
と、周りを見渡してみたが……
「全部高い……
コロッケが一万円とかふざけてやがるッ……」
「お、あの左奥に見える武器屋……
外に展示してある物、全部やべぇぞ!?」
カラスは興奮気味に言う
「流石に武器は買えないけど……
せっかくだし、錆取ってもらいに行こうっと」
ガラガラ
「いらっしゃいませ〜!」
店に来店すると
高級そうな武器と盾がガラスの中に展示されていて
店の人だろうか、大柄な男の人が挨拶した
「って……坊主かよ!?」
「え…緑のおじさんじゃん!!」
あまりに声色が違うので分からなかったが
そこに居たのは、緑のおじさんだった
「何!?坊主があの一般代表だと?
それにあの統率者と会うだぁ?
見た目に合わねぇ
ご大層な身分になったもんだな」
と、おじさんは妬むように言った
「ま〜な〜
経験はまだまだ足りねーが
こいつは黒魔術師に推薦された代表だ!」
「ほう……黒魔術師が…………」
カラスが俺が一般代表だと言うこと
そしてこれから統率者に会いに行くことを話した
どうやら代表というのは
例え一般代表だろうと、強力な肩書きらしい
「それで…何のようだ?
身内だと知っても、値段は下げねぇ」
と、おじさんは威圧するように言った
「別に武器を買いにきた訳じゃない
この武器の錆びを取って貰いにきたんだ」
カチャ
そう言った俺は
錆びた剣を差し出した
「ほう……それは光栄だ
だが、金はあるんだろうな?」
「うっ」
「……はぁ、俺が出す」
カラスは毛の中から金を取り出して、差し出した
「まいど
せっかくだしオプションも付けてやろう」
………………
奥の部屋から、やすりで剣を擦っている音がする
そういえば前に
包丁の錆びを取って
ピカピカにするのが流行ったなぁ
そう懐かしんでいた時
それは30分後のことであった……
ガラガラ
奥の部屋の扉が開いて
おじさんが片手に
錆びが少し残ったままの長剣を持って
近づいてきた
もうやすりで錆びは取ったものかと思っていたが……
「どうしたんですか?」
「いや…それがな……」
おじさんは口が重そうだった
何か起こったのか?
「この錆び……何年経ってんだ、これ?
ずっとやってるが、全然取れねぇぞ!?
まるで、大昔……紀元前………
いや、それよりも前からあるみてぇに
錆びが取れねぇ」
「長くなりそうってこと?」
スタスタ
ガラガラ
おじさんは、展示されてる剣を手に取った
「展示してある剣を持ってどうするの?」
「いや…試しにな」
それは長剣よりも太い、大剣のようなものだ
グサッ
おじさんは長剣を突き立てる
「……ちょ!?」
「おりゃぁぁ!!」
それをおじさんは、大きく横に振りかぶった
……錆びた長剣の方へ
スルッ!!!
ガキン!
「……やはりな」
「……!!!」
綺麗に大剣が切れた
無音。全く無音で。
切れた大剣の先っぽが
カウンターに飛んでいった
それはまるで、糸を切るような
繊細な物を切ったような
そんな、切れ味に大きな差があった……!!
……
「錆びを取っている時
やすりの方が切れちまうんだ
横にある錆びは取った
だが、縦の錆びは……下手すりゃ俺の指が飛ぶ…」
「……"出来ない"ってこと?」
「……普通はな」
「?」
「追加料金だ。
こっから先は超能力の出番ってことだ!」
「……」
俺はカラスの方へ無言で振り向いた
「……あーもう!!
十万だか百万だが払ってやらぁ!!」
「ってことで、おじさんよろしく!」
ゴトッ
(カラスのやろう、とんだ災難だな……
追加料金は少なめにしておいてやろう…………)
おじさんはカウンターに大剣とその破片を置いた時
罪悪感が出たようだ……
「おーい、出番だぞー!」
「何よ…私は便利屋じゃないのだけれど……」
(さっきの少女…?)
奥の部屋の方から
一緒に居た少女がやってきた
「お前の能力でどうにか出来ねぇか?」
カチャ
「……あーはいはい、任せといて良いのだわ」
小柄な少女は、意外にも長剣を軽々と持ち上げた
錆びを見つめ、何かをするようだ
スゥ……
少女は、右手で持ち上げた剣を
左手にかざした
「……?」
「時を遡れ……
ライン・タイムズ《甦れし明けの明星》!
ハアァッ!!」
カチ カチ カチカチカチ ガコン!
ピカァァッ
「……!!」
時計音がした後に、長剣が光りだした
そうすると、みるみるうちに錆びが取れていく……
「すごい……錆びが一瞬で…………」
そうして1分が過ぎる……
カァァァ……
茶色の濁った輝きはもうない
そこにあるのは、陽射しのような
白銀の輝きを放つ刃だった!!
「何だあれ…!?」
あれは聖剣か?
そう思わざるを得なかった
それ程までに神々しく光り輝いている
「出来たのだわ!」
そう言うと少女は
剣を片手に、青年に近づいた
「本当はこんなことの為の技じゃないけれど……」
と、少女は誰にも分からない程の小声で言った
「はい、これあなたのでしょ?
かなり使い込まれてたから
少し時間がかかったのだわ」
カチャ
少女は青年に剣を渡した
「俺からも渡すもんがある
なぁに、"エイジ武器店"自慢の長剣用の鞘だ
似合うはずだ」
「おじさんも、意外とサービスしてくれるんだね」
「余計な一言だ」
頭の後頭部を手で掻きながら言うと
白と青色の混じった鞘をくれた
「それじゃ、会いたい人がいるんで
お邪魔しました!」
「ちょっと待つのだわ!!」
「?」
白い服を着た少女は
食い気味で呼び止めた
「おっと、そうだったな。
"リーファ"、お前も行くんだったな」
リーファ……あの少女の名前か
「えぇ、黒魔術師が死んでしまった今
魔術師代表を変える必要がある……
そう!前魔術師代表であり!
魔術師二位の実力のアタシに……ね!!」
と、少女は自信満々に言う
「と、世界大会9位のギリギリ入賞出来ない奴が
なんか言ってるが、せっかくだし
一緒に統制の塔に行ってやれ。」
「おじさんは?」
「俺?俺かぁ
ここの店番があるからな。一緒には行けん。」
「えぇ……こいつ俺の毛を触ってくるんだよなぁ」
「まぁそう言うな。
こいつはまだまだ可愛げがあるんだ。
可愛がってやれ」
「"可愛い"んじゃない!
"カッコいい"の間違いなのだわ!!」
「へいへい……まぁそう言う訳だ。
後は任せる。
今度酒でも奢ってやるよ」
「わかった!」
そう言うとおじさんは
忙しそうに奥の部屋に戻っていった
銀髪の白い少女は、こちらに笑いかける
どうやら俺は
この子の保護者になったらしい
親の気持ち……いや、兄の気持ち?
どっちにしろ、嫌な気分ではないので
この子を連れて行くことにした……
そうして俺たちは、統制の塔へ向かう…………
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