魔人の街





ギコ ギコ……




「……着いた、か」




ここは、魔人が住む場所

"ラグナロク魔人国"


私は、その中心部にある

城下町を流れる川に、船を使って戻ってきた


雲ひとつない快晴

日はもう出ていないが大量のポールライトが

街を照らしていて

まるで黒い空が、白に染まったようだった


「久々に見渡してみるか」


ドッ ヒュン


私は、地面を一蹴りし

他とは一回り大きい家の上に飛び乗った




建物は石や木を主に使っていて

家の並びは美しい曲線になっている


二番目に大きい、中央地区より左側に見える

虹色に光るガラスをふんだんに使って

木と白いレンガを使って建てられているあの建物は

"神聖堂"と呼ばれる場所


そこは、幻の色、"虹" を

神の色として崇める宗教的な物だ




魔人の国だからと言って

勝手に禍々しい街を想像してもらっては困る



補足をすれば、あのポールライトは全て

私の色操で光を局所的に集めている

他にも、さまざまな場所で私の能力を使っている




「上々上々!

暫く見ずにいたが

ここまで発展していたのか…!」


長い間王城で引きこもり

ひかすら筆を握っていた私は

今の今まで街を見ずに、街の図形ばかり見ていたが

偶には実物を見ても良いな




さて、久々に城下町を見渡した所で

この格好は、他の物と比べれば地味だが

それでも少し目立つ

着替えるとするか……



ホワイト・プロダクション白の生産



黒い時空の穴が目の前に開いた

私はその穴に手を伸ばす


今のは、物質を生産する色操

私の色では白色が作れる


逆に言えば、白色しか作れないのが嫌になるがな



「少し歩くか」


地味な白い服を着たので、少し出歩くことにした


スタスタ




この魔人国は、昔から鎖国状態であり

元々縁があった種族としか関わらない


私とは別の派閥の者共は違うようだが…


「おーい、待てよー」


「やだ、待たない!!」


「……幼児…か

…………いつまでも

その笑顔を守りたいものだ……」


子供達が元気に走り回って遊んでいる



……こんな平和は続かない



人類の成長が、ここ数年の間で著しく

人間一人一人の生活レベルが格段に上がった


あの天空闘技場が、人類が豊かになっていっている

最大の証拠だ

更には、力で私に匹敵する者さえ現れた


……あの黒魔術師は

確実に暗部側の人間だろう

私を殺す為にあの場所に居たのだろうか…?


確か…あの者の能力は影を操るもの

周りはすっかり暗くなっていた………

やろうとすれば

その地形全ての物を凶器に出来たはず

しかし彼は…

殺傷能力が低そうな草しか使わなかった………


本当に、勝つ気はあったのだろうか……




話を戻そう


この人類の急成長は…別の派閥である

"リュウセイ"派閥が絡んでいそうだ




(力を持ち過ぎた獣は、自らを"神"と呼ぶ

それは世界の脅威となり

我々に牙を剥いてくる……

近い未来、偽りの平和な時代は終わり

大戦争になるのは見えているはずだ

なのに、何故人類に手を貸すような行為を…

…………今考えるのは無駄、か)




タッ タッ


一国の王がこんな場所に居ると知られたら

色々と面倒くさい


私は、小走りで

人気が無い路地裏を通り

"ヴァールテクス新王城"へと向かう


「……結局、会えなかったか…………

一度、顔ぐらいは見ておきたいものだが…

…遠い話か」









スタスタ


……


少し前から、私を尾行している者が居る……


直ぐ後方に、気配は消せいていても

色の波動は消せていない


「……後ろに居るのは分かっている

出てきてはどうだ」


「……流石魔王…と言った所かしら

この程度の隠密行動は意味がないわね」


スタ…


そこには

白黒の服を着ている比較的小柄な女性が立っていた

年齢は18程度だろう


右手には白いバック

左手には黒いバックを持っている


……何故二つも?



彼女の特徴は

綺麗な白銀のポニーテールをしていて

その髪は、肩甲骨の下まで届き

結び目には、大きな四葉のクローバーが

結ばれている


そしてこの独特の雰囲気は……

恐らく人間と魔人のハーフだろう




ここまで聞けば可愛いものだ……が

一つだけ変なことがあった


「……随分と可愛い姿をしているな」


「あら、まさかこのアタシを口説こうとしてるの?

だけれど…ごめんなさい

ワタクシにはもう好きな人が居るの」


彼女は澄ました顔をしている


ここはもう、直接言ってしまうか


「…そこまで可憐な姿をしているのに

何故"血の匂い"がするのだ…?」


「……」


この血の匂いは……人間と魔人の両方だった

そしてその血の匂いは同時に

"殺戮者"の冷たい匂いも立ち込めてくる……




「……ねぇ、白と黒

どっちが良い?」


「……?」


「右には竜、左には札束が入っているわ」


(この者の色の波動は……

透き通った色だな…………)


私は、最大級の警戒をして言葉を放った――



「……両方だッ!」


ゴロゴロッ!


「!!」


二つの何らかの球体が、ポールスタンドに当たった


じっと見つめれば、それが何かはすぐ分かった


……答えは、二つの生首だった

一つは竜の、もう一つには札束の入れ墨をしている


そしてそれは……


「…私の命を狙っていた………………

闇組織の幹部達……!?」


「…流石に、二人一緒に殺すのは

楽に死なせてあげられないから

微かな良心に響いたわ……」


その時、困惑した


この二つの生首は、我々の敵組織の人間で

存在は公には、決してされていないはず……


そして、二人ともこんな女性一人に

殺されるはずはない

我々も手を焼いていたはずなのだが……



そして彼女は、真っ直ぐな目で私を見てきた


「……ねぇ

私を王城に連れていってよ。」


「……何が目的だ?」


と、私は回りくどい質問は苦手なので

直球で言ってみた


(素直に考えを言ってくれるのか……

この者は今は敵か味方さえもわからない

単なる脅威

変なことを言ってきた場合は……)



「…アタシは"10年後の未来からやってきた"

一年後、人と魔の大戦争が勃発する!

アタシは……それを止めに来たの!

だから…!私を連れてって!!」


「……!!?

未来から……だと!?」


私は唖然とした




「……」


彼女は返事を待っている



「…面白い冗談だな」


私は嘲笑うように言った


「…………………」


しかし、彼女の目は依然変わらず

真っ直ぐ過ぎる程に、こちらを見ている


その姿は異常だった

この者の先程の楽に殺せなかったという発言は……

恐らく数桁もの数を殺してきている者のセリフだ

なのにその目には、霞が感じられなかった


信念すら感じるその姿に

一時だけ、心を打たれてみるとしよう……


「だが……賭けてみる価値はありそうだ」


「……!!それなら…!」


「戦争が近々起こることは私も予感している

我が王城に、客として招待しよう……」


少しの迷いはあった

しかし、私が見たのは彼女の有用性ではない

彼女は、私の"第二の娘"に似ていたのだ


だからと言って可愛がることなどはしない

ここは城に連れていき

暫くの間、様子見といこう


「よーーし!!

それじゃ、王城までレッツゴー!!」


「元気なものだな」


こうして私は、謎の女性と共に路地裏を後にした

多少の不安と疑念を残した私の歩みは

いつもより速かった………………

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