カラスの英雄
……バッ!
「……起きたか」
ここは、影の世界だろうか
すぐ隣には、黒魔術師が座っていた
フードは被っていた
俺は寝ぼけているような感じで
すごく眠かった
「具合はどうだ、少しは落ち着いたか」
「頭痛は治ったけど……
あれは何だったんだ……?」
「……それはまた今度説明しよう」
その時、現実のことを思い出し
眠気も覚めた
「そういえば、現実の方は大丈夫なのか?」
……
「俺はもう……死んでいる」
「!!?」
間に合わなかった……!?
いや、俺が死なせたようなものだ
でも、黒魔術師程の人間なら
自分で応急処置出来た筈だ
なんでやらなかった……!!?
「……この世界の説明もしておこう」
そう冷淡に言うと彼は立ち上がった
俺も合わせて立った
「ここを一言で言えば
"俺の能力が作り出したもう一つの世界"だ」
……?
「……言ったことのそのままの意味だ。
ここは人の概念を形にし
こうやって話し合うことが出来る。」
彼は続けてこう言った
「ここは完全に現実と隔離された別世界
どうやっても消えはしない
そして、この世界に概念として確立している俺も
本体が消えたとしても、存在し続けられる
……大雑把にこんな所だが、難しそうか」
「……大体だけど、わかった」
ほんとに大体しか分からないけど
これはあれだ
詳細に理解するのは難しいやつだこれ
「……これからが本題だ」
「……?」
そう気を張らせるような声で言うと
急に体勢を緩めた
「その前に、何か思い出したことはあるか?」
「そういえば、何か脳裏に何かが喋り出して……
だけどそれに一切聞き覚えがないんだ
今はもう聞こえないな……」
「…!そうかそうか、大丈夫だったか……!」
顔は見えないが、普通なら想像が付かない
黒魔術師の笑顔が見えた…のかな
それはそうと、何が大丈夫なのか気になった
「何が大丈夫なんだ?」
「……こっちの話だ」
何だよ
何でさっきから気になるような言い方して
「こっちの話だ」「また今度」……て
少しムカついたので話を急がせることにした
「それで、本題って?」
「……"能力の解放"だ」
「!!!!
……って、意図的に解放できるものなのか?」
一瞬宝くじに当選したぐらい嬉しかったが
そんな甘い言葉には乗るまいと
一応否定的になってみる
「……大多数の人間は、物心つく前に
色使いになることが出来る。
……だが、お前の場合は特殊だ」
「特殊…?」
「お前の能力は、他の人間が目の前で死んで
初めて発動する物だ。
……っと」
「……?」
そう言うと黒魔術師は
右手を左肩に置いて、集中する
「……………」
「何をやって…?」
「……………………よし」
謎の無言が続き、何かをした
それだけは確かだが、一体何をしたんだ?
「何がよしなんだよ」
彼は一応誘拐犯だ
俺は攻撃的な態度は怠らない
「俺の概念の一部をお前の無意識に移し
能力を覚醒させるよう働きかけた
……能力の使い方は本能が教えてくれるだろう」
「あ、ありがとう……」
18年も覚醒が出来なかったのに
こんなにスムーズに出来るようになるとは……
到底思えない
それに、少し違和感がある
「何で自分でも分からないのに
他人である黒魔術師が能力を知ってるんだ…?」
………
「いつか分かるさ」
話をバッサリ切られてしまった
いつか分かる…?
誘拐までして
自分勝手にも程がある
「さぁ、用は済んだ。目覚める時間だ」
「…!」
そうだ
今はまだ戦闘中だったんだ
完全に気を緩めていた
「いつまでもここにいても
現実の時間は止まっていない。
あのカラスは…
恐らく時間稼ぎなど、最初から考えていないだろう
早く行ってやれ」
「待ってくれ、何故俺を誘拐したのか分からない
俺は十分弱い。だけど!
俺より弱い人間は山ほど居たはずだ!!
なんで俺だったんだ!!」
あんなに憎ったらしい黒いフードがもう透けて見える
「フッ……分かるさ、お前なら、な」
初めて決定的に笑った口角が見える
その口角は、何故笑ったのかと疑問を抱かせた
……………………………………………………
バッ!!
「はっ…!」
俺はいつもより3倍早く起きた
これには某赤い彗星もにっこり
???「それはエゴだよ」
しまった
アム⬜︎さん出てきちゃった
しかも今の笑顔は実写版の方のシャアだった
体の調子が過去最高潮に良い
俺は瞬時に眠気を覚まし
今やるべきことを把握する
「………………」
俺の目には
倒れて死んでいる黒魔術師が映っていた
その隣に"錆びた長剣"がある
俺は訳もわからずに隣に座る
「……黒魔術師、結局あんたは何だったんだ
魔術師代表……代表になれた時、嬉しかったのかな
どんな戦い方をしてきたんだろう
……!」
その時、初めてカモミールが服に付いていたのを知った
ここは草原で、花という花はないので
このカモミールを前に置いた
「これしか無いけど……気に入ってくれよ
俺はあんたが死んでも
これしか出来ないから、な」
色を覚醒させると言っても
一向にその予兆もないので
その場から去ろうとした
その時だった
ピカッ……
「…!?」
瞬間、黒魔術師の体が光りだしたのだ
何が起こったのか戸惑った
イィィィィィン……
その光は、光の粒になり
螺旋状に回りながら、俺の周りに飛んできた
その時、俺は理解した
「……カモミール、気に入ってくれたのか?
そりゃ良かったよ。」
イィン イィン
光の粒が緩急をつけて光った
「……一生に一度のお願いだ
俺に"力"をくれ
お前だって"自分勝手"だったんだ
一度くらい聞いてくれても…良いだろ?」
スゥゥゥゥ…………
そう言うと、光は俺の方へ向かい
体に流れてきた
その時
「うっ…!?」
「もう一度……あなたに会いたい」
これは……黒魔術師の声?
俺の力は、他人の記憶も流れてくるのか
……何か思い出せそうなことがある気がした
心当たりも無いのに…何故?
そう思いながら身を任せる
何か変化が起きると信じて…………
「…………………………きた」
ブワァァァァァ!!!
その時その場所その空間
そこに輝きを放ち、立っている人間一人
ありえない光景だった
その空間全域に
"黒い風が吹いていた"
「第五巡目……ミナミ隊!!」
影の軍団は、黒魔術師の生還を祈って耐えていた
しかし
「……おい、エリック」
「なんだ?」
「……もう、影の軍団は半壊状態
恨む気持ちは分かるが
ここから立て直しはもう……」
「…うるせぇよ」
「!?」
「白魔王は……あいつのことを"敵"として見た
俺らがここで倒さなければ
地球の裏側まで追ってくる
……それに、ここであいつが死んだら
俺らはどうする?」
「それでも、もう…限界なんだよ」
ミナミは、エリックのその姿を見て
これ以上ない悔しさと無力感に包まれていた
「周りの獣は魔人に進化している
俺らは劣等種としてまた…………
迫害され続けるのか…!?
あんなやつ一人に何百匹かかっても
倒せないから、俺らは
"劣等種"じゃ……ねぇのか……」
「……エリック………………」
一人のカラスは、泣いていた
それは、影の軍団一の頭脳を持った
一匹のか弱い命が
叫びそうな程、悔し涙を浮かべていた
周りはもう倒れたカラスがゴミのように
散らかっている
骨が剥き出しのやつも少なくない
しかし
そこにはどうしても引けない
黒魔術師との"約束"があった
「黒魔術師は……
脳みそだけの劣等種の俺らに
初めて"影の
だけど、その恩人が命を狙われている……
そんな時、俺らが守るって
昔、あいつに約束しただろ……」
瞬間、昔を思い出す
「なぁなぁ
あの時なんで俺らを助けてくれたんだよ」
「……俺はただ胸くそ悪くなっただけだ」
「はぁ、理屈では動かない、か。
あんたのこと、気に入ってるんだぜ?こう見えても」
「…………それなら」
「ん?なんだ?」
「……俺の"力"になってくれ
お前が理屈で動くというのなら
俺はお前達に"居場所"をやる
……ギブ&テイクだ」
………………
ハハハハハハ
その場にいる全カラスが笑った
「お前、それギブ&テイクになってねぇぞ
それはお前にとって損しかねぇだろ」
エリックは笑いながら言った
しかし、黒魔術師は全く笑わなかった
「……お前、まじなのか?」
その時、カラス達の笑いが止まった
「……至って真地面に言ったつもりだ
俺は何と言っても"自分勝手"なんだ
お前達に拒否権はない」
……………………
「ほんとに……こんな俺らでも良いのか?」
「…………」
彼は沈黙で返した
「おい、どうすんだエリック」
ミナミが焦った顔でまた言ってきた
「……分かった!!
これからは俺たちは"影の軍団"だ!
これからは、黒魔術師の"剣"になろうじゃないか!!」
ォォォォォォォ!!!!
あの時は、皆バカだった
こんな黒尽くめの胡散臭いの結晶のような男
普通はついて行く方がおかしい
だけど、俺らはそんな"おかしい劣等種"だったんだ
思えば、ここから俺らの物語は始まったんだな……
「なぁ、ミナミ」
「……」
ミナミは、珍しく無言だった
「どこで間違っちまったんだろうな、俺ら」
「……何も間違っちゃいねぇよ」
「……!!」
「あの時、黒魔術師についていかなかったら
俺らは一生負け犬だったんだ
お前は……間違っちゃいねぇ…………」
「……こんなことは、本当はしたくはなかった」
無慈悲の天使は、カラスの血で
赤色に濡れている
このカラス達の洗練された連携に隙がなく
油断したら急所を狙って突撃してくるのだ
手加減をしていたら、確実にこちらがやられていた
同じ獣として、殺したくはなかった
「なかなか強かった
同じ獣を殺すのは数百年ぶりだ
絶対に、忘れはしない――」
カラスは、最後の指令を出す
「全軍、とつげ――」
「その影の軍団に、俺も入れてくれよ」
!!!
「カモミールの少年……!?
いつからここに……」
白魔王は驚いている
気づけば白魔王と影の軍団の約15m離れた間に
錆びた剣を持ったカガミが居たのだ
「……黒魔術師?
いや、一般代表……?」
エリックは一瞬興奮した
おかしいな、俺の目が腐ったのか?
一瞬、一般代表が黒魔術師と重なって見えた
「答えは、生きて帰れたら聞かせてくれよ」
「……お、おい」
スゥゥゥゥ……
「!!カモミールの少年、まさかお前も……」
「おい、エリック!!離れろ!!」
「黒魔術師……お前がどんな人生を送っていたのか
俺は知らない……だけど
お前を見習って"勝手"に決めても、良いよな……?」
黒く輝く全吸の
ドドドドドドドドド
「!!一般代表、まだ死んだ仲間が……!
というか、その能力は……!!?」
「……後で説明する!
ここは早く逃げるのが先だ!!」
「おいおい…何がどうなって……
待ってくれよ!エリック!!」
「へぇー!
カラスさん名前エリックって言うんだ!!」
「そんなん今はどうでもいいだろぉぉぉぉ!?」
イィィィィィン!!
俺は右手を前に出して
春山をコントロールし、白魔王にぶつけた
こうド派手な技を打っておいて何だが
初めて打った技がこれだと
やっぱり、すごい疲労感に襲われる
スタタタタタタタ
バサバサバサバザ
「ん…?」
前方30m程先に
二人ほど大きい草に隠れてよく見えないが
大きい影と小さい影が見えた
しかし、敵意は感じなかったので
そのまま通り過ぎようとした
ドゴォォォォォン!!!
「!!?
まさか、あの50メートルぐらいあった春山の壁を
殴って穴を開けて進んで来てるのか……!!?」
「お、おい、さっきから俺何もしてねぇけど
一瞬足を止めることは出来るが……」
「エリック、そんなカッコつける性格じゃねぇだろ!
今は皆が生き残るように行動しようぜ!?」
ここにいる全員が焦っていた
正直、この手を使っても逃げれないのなら
打つ手はもう……
そう、諦めかけていた時だった
「止まれ!!なのだわ!!!」
「そこのお前さん達、もう安心していいんだぜ?
……って、お前はさっきの……!?」
「…!!さっきの緑のおじさんじゃん!?」
そこに立っていたのは
三つの剣が周りを回っている
銀髪で、青い瞳をした小柄な少女と
さっき試合をしあったおじさんが居た
ボコボコボコボコ……ドッゴォォォォ!!
辺に信じられない程の大きな打撃音が響き渡る
そう、春山を貫通してきたのだろう
「あぁぁぁぁ!!
止まったら白魔王来るじゃん!!
あなた方は状況わかってらっしゃる!?」
アホみてぇな声が出た
「いや待て一般代表……
あいつら…!!」
エリックは見覚えがあるのだろうか
そんなにすごい人物なのか
「俺、この目であの左に立っているやつ見たぞ!
魔術師代表決定戦で、黒魔術師と戦ってた
"元魔術師代表"だぞ!!!
右に立ってるのは……まさか
"現剣士代表"!!?」
「え、えぇ!?」
素直に驚いた
でも、なんたってここに?
「事情は後!なのだわ!!」
小柄な少女が少し口調がおかしいのに引っかかった
そんなどうでもいいことを考えていた時
緑のおじさんが口を開いた
「…来るぞ!!備えろよ!!」
スタ スタスタ スタスタスタ
「これはこれは……驚いた」
白魔王が姿を表した
しかし、その顔は初めて"焦り"を表した顔をしていた
「よぉ…ご無沙汰してるな
"白魔王"さんよぉ」
緑のおじさんは落ち着いた感じで話しかけた
「人類最強を集めたような顔揃えでお出迎えとは……
ここで頂上決戦でもするつもりか?」
白魔王が、苦笑いをしてそう言った
二人とも、とんでもない強さをしているんだろう
顔揃えの中に……俺も居るだろうか
……ご無沙汰?
緑のおじさんは白魔王に会ったことがあるのか…?
と、一つの疑問を抱えた
「悪いことは言わん
ここから引いた方がいいぜ?
直に他の代表、元代表達がここに集まってくる」
緑のおじさんから、信じられない程の
"気迫"を感じる
暫くの間、沈黙が流れる
「……ここに居ては命が幾つあっても足らんな
良い、私は引くとしよう」
!!!
「そりゃどうも、有難いこったぁ」
スタ スタ スタ スタ スタ………………
「……何よあいつ、何かムカつく」
「まぁ良いじゃねぇか
実際、俺たちは無傷で済んだ訳だ」
「俺ら、助かった…のか?」
エリックは、覇気が抜けた顔をして言った
「……そう、らしい」
しまった
俺も覇気がない声を出してしまった
「う、うわぁぁぁぁぁぁ」
「お、おいミナミ!!
お前が急に泣いたら、俺が泣けなくなるだろ!!」
「だ、だって……うっ…………」
そう…………か
俺は、生き残ったんだ。伝説相手に。
そう安堵すると、急に体の力が抜けた
「お、おぉ!?」
俺は膝から崩れ落ちた
果てしない疲労感に包まれる
「…やった、生き残れた…………
…………助けられたんだ……俺が、命を…………!!」
――それは、日が登り
世界に光が包まれた時の出来事だったという
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