目醒める時








白魔王伝説


第一節 白翼の天使


それは今より遠い、遠い、遠い日のこと


いつも通りの雨霰

正体不明の疫病や

襲ってくるゾンビ達


魔人達は困っていた


気が付けば隣にいる親が死んでいる

それが普通になっていた

異常だとも知らないで


そこに突然、一人の魔人が現れた


その者は天使のような翼を持ち

それはそれはお美しい方だった


そしてその方が言った


「この地に光を齎そう」


そう言った時、その方は

天にお祈りをしたそうな


そうした途端、雨が止み

辺に光が包まれた


その後もその光はゾンビを焼き

疫病も治り、絶えたという


奇跡の力司る魔人に、一人の少女が名を聞いた

その方は目線を合わせてこう言った


「私こそが真なる魔王、"白魔王"だ」


その時、周りの雰囲気が凍てついた


それを悟ったその方は、胸を高らかに

天を刺すような声で言った


「魔王とは!!!

民に戦乱の世を与える愚者ではない!

民を導き!世界の闇を滅ぼさんなにとぞすれば!

今ここに居る者こそ、真なる魔王と知れ!!」



その場にいる者は全て

そのあまりの威光にひれ伏した

そして、完全に理解した

彼は"奇跡の体現者"だと



世は三人の魔王が玉座を争う戦乱の世だったが

今この瞬間に"四人目の魔王"が現れた……


この出来事こそ、白魔王の始まりの物語。


















「…ん」


突然の目覚め

残念ながら側には親も太陽すらない


さっきまでの出来事が夢ではないと実感した時

少し人生を悲観した




どうやら俺は影から生えてきたようだ

直前まで俺の本体は眠っている状態だったらしい


「…血?」


俺は一応剣士だ、血は見慣れている

しかし、その光景は目を疑うものだった


あたり一面の雑草が真紅に包まれている

月が赤に染まったのかと思うほどだった


強烈な匂いがすぐ近くからしたので

俺はそれが血だと断定する




その血の元を見ると左腕の無い男が背を向けて

立っていた


破損している部分は見ないよう目を逸らした






その時不意に思った


(シャンクス…?

いや、未来の孫悟飯…??)


???「悟飯さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


おっといけない




それはそうと、何かを掴んでいるのだろうか

右手が前にあることはわかるが

それが何なのかは分からなかった


そして…その男の正体は服装を見れば

語るまでもない


(黒魔術師…!!?)


全身黒尽くめで黒いフードを被っている

黒魔術師に違いない


そう気づいた時、彼が頭を引いた


(最弱代表…!?俺の世界に行ったはずでは!?)


目と目が合った

驚いている顔をしていた


(いや、どういう状況…?)


理解し難い状況ではあるが

俺はさっきから混乱しっぱなしだったので

慣れてきたのだろうか

あまり驚かなくなってきた


その時だった




「黒く輝く全吸のブラックホール……」


「?…!!」


ササッ…


体が勝手に動いた

黒魔術師の影に俺の体が触れているから

俺の体を動かせたのか…?


しかし支配力が弱い

弱いっているからとか

間接的だからとか理由は分からない


が、黒魔術師の必死な姿を見て

何か意味があるのかと考え、抵抗しなかった



(何なんだ…?血だらけのその必死の姿

これじゃ、誘拐した理由が

俺を脅威から守るみたいに思えてくるじゃないか

さっさと逃げてしまえばいいのに……)


もし戦っている相手が俺を助ける目的で

戦っているのなら

あの黒魔術師の左腕を

無くす程の威力の攻撃、する訳ない


密か密かに行動しながら

起きた物事の謎を解いていく

しかし生まれてくるのはまた疑問だった……








ワサッ


少し離れた場所で伏せられた


ここで脅威が去るまで待てと言っている気がした


スゥ…


「ふぃ〜、何とか元の世界に来れたぜ。」


「!!」


カラスが俺の影から生えてきた


なんで俺の影から?

黒魔術師の影から出て助力すればいいじゃん

その疑問はすぐに晴れる


「…何でこっちから出てきたかって?

俺が黒魔術師から出るには許可がいるんだ。

でも、ギリギリあいつに繋がっている

許可の要らないお前から出てきたってことだ。


「もうちっと話すと

あいつが影を触れたやつなら全員出れるぜ」


そして少し間が空いて疑問を言ってきた


「それで…なぜ伏せている?」


「それは…」


言うのを躊躇った

流石にあの状況をそのまんま言ったら

発狂物だろう


「…って言っても、大体予想はつく。

黒魔術師が体を操ってここまで来させたんだろ?」


合っている


俺は小さく頷いた


「そんで何でそうしたかと言うとだな

あいつは"何か"と戦っている

その何かはあいつより"格上"なんだろう

それで俺たちを生かす為に時間稼ぎをしている

推測だが、何年も相棒やってたんだ。

これぐらい察さないとなぁ…」


なるほど

生きて帰れたら、なぜ誘拐したのか

ちゃんと問いたださないとなぁ




「淡々と喋ってるけど、心配じゃないの?」


この問いには、カラスは笑顔で返してきた


「おいおい黒魔術師を舐めてもらっちゃ困る

あいつはな、首を切られても

意識があれば色操で瞬時に位置を戻し

そこの影を固定し

生き残る…というより、生き返るんだぜ?」


「何だって!?」


そんなことも出来るのかと単純に驚いた


「でも、そんな戦い方は常人じゃ出来ない

場合によっては自分から切られにいって

瞬時に治して攻撃することもあるんだ」


「あー…」


そんなことやりそうな雰囲気だったな、あの人


灰のように燃え尽きた感じに見えるけど

その中に執念程の何かも感じていた


カラスは今までの経験を思い出して言った


「恐らく死に場所が欲しいんだろうな。

何でかは知らんが、心に傷がついていて……

何というか、自尊心が無いのがわかる。

昔になにかあったんだろうなぁ…」








「さて……

黒魔術師から離れてから大分時間が過ぎてるんだ。

……一緒に来てくれないか」


と、カラスは助力を求めてくる


(こいつ上手いな

どんな薄情なやつでも、助けたくなるだろうな)


今までの会話に意味があったと

俺は変なところで感心する


「勿論だ。

あの人に会ってなぜこのことをしたのか

真実を聞かないと、な」


本当のことが気になるのは事実だ

俺は笑顔で言った


「ありがとうな」


カラスも、笑顔を返した
















俺は立ち上がり、カラスは飛ぶ


黒魔術師の支配力は既に無くなっていたので

俺はほぼ自由に動けた


スタタタタタタッ


カァー!




少し前に

胸ぐらを掴んで崩れている黒魔術師と

謎の翼が生えた銀髪の人物が見える


「なんだあれ?

天使か何かか?」


俺はその神々しい姿に疑問を覚える


「馬鹿、白い翼を持ってるやつぁ

世界に二人もいないだろ!」


「…まさか、白魔王!!?」


白魔王伝説は俺の耳にも届いている

内容は確か四人目の魔王として降臨して

三人の真の魔王争いを終わらせるという話だった


そんな英雄譚の主人公が目の前にいると思ったら

ほんの少しだけ戦意が無くなった


そんな戦意が薄れた俺自身に鼓舞する


「だぁーーーー!もう!

なーにが"伝説"じゃい!!

男は度胸!怪物でも何でもかかってこい!!!」


カラスは頷く


「その勢い、止めるんじゃねぇぞ?

俺は一足先に行って先手を打つ」


カラスは速度を上げ突撃していった


サァァァァ


(速い!)


時速は200キロは出ている

カラスの進化はここまで来ているのか







ドゴォォォォォン!!!


「ブハッ!」


周囲に凄惨な程の打撃音が鳴る

黒魔術師のあの姿を見て余程怒っているのだろう

5メートルぐらいぶっ飛んだ


「ガァァァ!!!」


カラスの咆哮に若干驚いた


凄い気迫だった

こっちまで怖くなってしまいそうだった


「凄い、カラスさん!」


「おう!黒魔術師を、何としてでも生きて帰す!

それはそうと

さん付けはちょっとくすぐってぇな!!」




ダンッタッ


白魔王は体勢を戻し

数メートル後ろに行き間合いを取る


「喋るカラスに、カモミールの青年…

黒魔術師の仲間か…?」


突如として現れた一人と一匹が仲間と

白魔王は判断する


(あのカモミールの青年……顔つきが似ている

まさか親子?だが、年齢は18ぐらいか

黒魔術師が30前後に見えたが……)


白魔王は何か思う所があるようだ。右手を顎に置き

打撃のダメージをまるで無かったように

考えに耽る


「おいおい……

速度200kの突撃を顔に受けたのを忘れたのか?

効いてるようには見えねぇな」


カラスは経験したことのない頑丈さに驚いた


「カラスさん、俺は黒魔術師を運ぶよ!」


カモミールの青年ことカガミは

自分が戦えば一瞬でやられると考え

瀕死の重傷を負う彼を運ぶことにし

その場を去った…










カラスも自分のやるべきことを考える


(勝つ必要はない。敵を"撹乱"する)


それを脳、脊髄、中枢神経を全て使って

考える…


(あいつはなぜやられた?

反応できない攻撃が来たから

その出来事はなぜ起きた?

実力に圧倒的な差があったから

それをどう埋める?


数の暴力と連携で埋める!!)




「カァッカァッカァッカァッ

カァッカァッカァッッッ!!」


カラスは七回鳴いた


その声は、草原を超え

大地の遥か彼方へと鳴り響いた


(七度ばかり鳴いた…辺にいる仲間に合図をしたのか

しかし……このカラスと仲間の人間は

果たして倒す必要があるのか…?)


白魔王は体勢は棒立ちだが、警戒していた

だが、カラス達を敵とも思っていなかった


バサバサバサ……


カァーッ!


「うおっ!!」


カガミの影からカラスの大群が出てきた


カガミは急にカラスが出てきたのにも驚いていたが

その数が数えきれなく、それにも驚いた


(カラスはこの一匹だけじゃなかったのか)


白魔王は、黒魔術師にしか興味がなく

あまり驚かなかった



カラスの大群が飛んできた

それは、黒炎が空を焼いているようだ


「これが、"影の軍団シャドウ"だ――」



カラスの大群がが草と空を覆う

――影の軍団の仕事が始まる













「エリック!やっと俺達の出番か!!」


このカラスは俺の親友で、本名はミナミ

影の軍団一の身体能力を持つ


エリックとは、俺の本名で

軍の司令官をやっている


「ミナミ、全カラスに伝えてくれ

目の前にいる魔人に

波状攻撃をし、足止めをする!

作戦名は……

"スターダスト・レイニー"!!」


「おーけー、波状攻撃だな!

俺達の隊が先陣を切って

あの魔人の余裕ぶった鼻っ柱を折ってやるぜ!!

野郎共ぉ!行くぞぉぉ!!」


バサバサッ!!


暴走列車の勢いでミナミ部隊は飛んで行った


「相変わらずすごい戦闘狂だなったく。

誰も先陣を切れとは言ってねぇのに。

まぁ良いか、次の部隊は……」














「俺もっ…早く黒魔術師を運ばないとっ!」


カガミは精一杯の力で黒魔術師の右腕を引っ張り

移動している


が、カガミの凡才の力で引く力では

あまり速く移動出来ていない


「その前に、左腕は…あった!

これを意識が戻った時に……!?」


左腕を見つけたと同時に

黒魔術師の意識が戻ったのか

右手の人差し指が少し動いた


「カガミ……」


「!?どうして俺の名前を……?」


「そんなことはどうでもいい……ぐっ…」


必死に何かをしようとする姿に俺は動揺した


すかさず俺はすぐ側に行く




「カラスが言ってた、左腕はここにある!

早く色操で元に…」


「……」


ブーン ブーン


「おい…おい!!

ボーッとするのか?早く!!!」


「その左腕は……ハエが集っている…

もう……使えん……」


「!!?」


思えば一番冷静ではなかったのは俺だった

それ程俺によって"死"という概念は

遠いものだったんだ


「そ…それじゃあ血の影を固定して

血を止めるとか…」


「血の影は内側にあるからな…

血管を穿れば我慢をすれば血が止まるかもしれないな」


「なら…!」


「だが……駄目だ」


「な、なんで……」


「……こんな左腕の無い体で、あの白魔王に

どう戦って勝つと言う…?

確実に殺しに来る……

あのスピードでは逃げるのも…無理だ」


「じゃあ、どうすれば……」


混乱して頭が回らなかった

こうなるんだったらもっと止血について

勉強しておけば……







後悔をしている時



「……一般代表」


「…?」


なぜ本名を言わなかったのかと聞くのは

少し抵抗があったので言わなかった


うん、すごくどうでもいい


「最期に、俺の顔を…覚えろ」


そう言うと、被っていたフードを下ろし

素顔を晒した


「最期って、まだ決まった訳じゃ……?」


言の葉を紡ぐ途中

時が止まったように

その空間に、衝撃が走る


「……俺にそっくりだ…………………」




瞬間、頭痛がした


「ううっ…!?」


脳内に、幾つもの声が響き渡る




「「骨を一本一本折って……!

血管を全部、潰し尽くしてやるぅぅぅぅぅ!!!」


「それ、俺がやります!!」


「あなたのこと…嫌いじゃない…のよ」


「俺自身の人生を、無意味だとは言わせない!!」


「君ならば……出来るかもしれない」


「人類を…親父達を……頼んだわよ…………」」




「なん、だ、これ……!?」


突如として謎の声が脳内で喋ってくる

それぞれが何の話をしているのか全くわからず

理解をしようとするのはやめたが

延々と脳内に響いてくる


黒魔術師の顔を見ただけなのに

まるで、未来を見ているような感覚に陥った




「聞こえるか…人の悲鳴が……!!

分かるか…この理由が………!!!」


黒魔術師は必死に何かを知らせようとしている


「三億四千万年の歴史を思い出せ……!!

「自分」という存在を…………思い出せ!!!!」


それを聞いた途端、無意識が叫んでいる


目醒める時だ、と









バタッ……


カガミは、脳に届いてくる情報が

際限無く来るため

遂には気絶し、倒れてしまったのだった



「――伝えることは……伝えたな…………

"次の俺は……

きっと成功してくれると信じて"………」


黒魔術師は、色んな感情を抱く

気づけばもう血は搾りかす程度しかない


黒魔術師の最期


それは誰にも見られることなく

ただ孤独に一人死んでいく

夜の虫の鳴き声はもう聞こえない

深淵に自分をゆっくり運んでいく


そうして一人の人間は

夜の黒に沈んでいったのだった……
















――これは、"全ての始まりと終わり"

二つのひと《歴史》が交差して始まった

新たな一つの物語


登場するのはどこか問題を持った人達

それと…平凡な俺


この波乱な幕開けとなった物語は

一体どんな道をしているのだろう



人魔戦争の引き金になったこの事件は

後に"人魔血戦"と言われ新たな伝説となる


今まで水面下でしか争いのなかった

人、魔、機の三覇は

この日を境に"偽りの平和"に幕を閉じるのだった






――color world wars

     [primitive combat]

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