一人の人間と一匹のカラス

1人の人間と1匹のカラス






「…ん」


突然の目覚め

朝起きる時は

日の優しい光と親の愛情に抱かれながら

起きたいものだ


寝覚はいい

後にも先にもこれ程の夜の終わりは無いだろう


しかし困った

あまりに寝覚が良過ぎるあまり

自分以外何も見えない



「黒い地面に黒い空

だけど、暗闇と言う訳じゃないな

ちゃんと自分は見える」


ハッ


黒の魔界

黒点の空


黒と付ければ

大抵はカッコいい風になることに気付いた


そして、ここならどんな口説き文句でも

万年ぼっちの俺でも彼女が作れるかもと、考えた


そんな余計な妄想をしながら

内心、不安を感じていた


俺は死んだのではないか

ここは、三途の川に近いものなのか

疑問が絶たない


「……まじ、かよ」


何もしなければ、ただここで死ぬだけ

何も残せないまま

何者にも成れないまま

死んでいく…


「だぁぁぁぁぁぁ!!」


ドタバタドタバタ


情緒が混沌の闇に堕ちたみたいだ

混乱し、暴れたり大声を出したりした


心の中では

これで何か変化が起きないか期待した




すると、突然自分の影に違和感を感じた


スゥゥ…


「おいおい…何してんだ?」


「…!」


気づけば背後からカラスが出てきた

正確に言うと、カラスが影から生えてきた…のか?


(よし…冷静に、冷静に)


情動と混乱を抑えながら

今やるべきことを、飲み込んでいく


さっき襲ってきた奴は

色撃でカラスをけしかけて来たのだろう


だが、あの能力は

何色の何?

と、某番組のあの人の様なことを考えてみたりした


この黒い世界は…何なのだろうか

何もないこの空間は

何もしなければ、吸い込まれてしまいそうだ


しかし、この黒い世界は

とても凡人には理解し難いものであった


「お、お〜い」


「!」


カラスのことを完全に忘れていた

一旦、話してみようか




サッ


「…ようこそ、我ら"影の軍団"の世界へ」


羽の擦れる音がする

カラスがボウ アンド スクレープをしながら

そう言った


「か、影の軍団…!」


それを見て俺は、カッコいいと思ってしまった

それどころじゃないが

それでもロマンが溢れるネーミングセンスだ



「って言っても、俺はただ単にお前が可哀想だから

これからのことを言おうと思ってな。

影の軍団も今付けた名だよ」


子供の夢を壊された様な気分だ



(影の軍団って名前、良いじゃん…

これから名乗っていけばいいじゃん!)


中二病な俺は、我慢の限界に達した


「…それじゃあ、黒の影騎士は?」


「!!」


しまった、言ってしまった


…黒の影騎士ってなんだ


自分のこのネーミングセンスの低さに

恥ずかしいを通り越して

何も考えられなかった


「いや、それは設定欲張ったな

黒の騎士か影の騎士にした方が

とっつきやすいだろ!」


しかしカラスは、冷静にアドバイスをした


「おお!」


それを聞いた俺は、楽しくなってきた


カラスが何か閃いた顔をした


「あ、待てもう一つ浮かんできた

漆黒の影軍はどうだ!?」


う〜ん、カラスのネーミングセンスは

抜群に良い


「ありそう!

それじゃ純黒の死進(ししん)軍は?」


「いや、死に進む軍はやばいやろー色々と

ここは……」



1人の人間と1匹のカラスは

互いが出会ったことを喜ぶかの様に

盛り上がる

話し合う


それは、姿形は違えど

考えることは同じで

純粋に、楽しかった




「それはそうと」


「黒の影法師……て、なんだ?」


カラスの言った影の軍団やこの世界のこと

それに黒魔術師や"最弱代表"のことさえも

まだわかっていないのに

何をしていたんだ、俺は



「この世界や…影の軍団?

それに黒魔術師や最弱代表とか

一体全体どうなってるんだよ」


「…う〜む」


カラスは悩んでいる様に見えた

さっきまで楽しそうにしてたのに

少し罪悪感が出てきた


「この世界はあれだ、夢の中じゃねーか?

明晰夢の中に入り込んだんだ。きっと。

詳しいことは黒魔術師に聞いてくれ

はっきりと答えられるのは影の軍団だな…」


ゴクリ


暫くの間沈黙が続いた


黒い世界にこの静けさ

今にも襲ってきそうで

少し怖かった



「影の軍団は……

"魔人類"になりそびれた

負け組動物の、軍団だ」


「魔人類…」


「そう、魔人類

獣が進化して、人間に最も近くなった動物

それが魔人。」


カラスは、分かり易過ぎるぐらいに

簡潔に説明している


しかし、その口調は

どこか引っかかった


それが何なのかはすぐわかった


「…おいら達は人間に飼われることでしか

生きていけない

そうしなければ食われてしまう

魔人にも成れなかった劣等種なのさ…」


「…」


その目は、色んな感情が入り混じって見える


俺は悲しみや怒りという単純な物とは

程遠い何かだと感じた


悲しみという名の檻の中に

花が咲いている様な

そんな、深い何かだと悟った



それを見た俺は、深い罪悪感に囚われた


こんなことを聞かなくても

黒魔術師とカラスは協力関係と

容易に想像がつくものを…




「ごめん」


「良いって良いって

おいらが恨んでるのは

進化しなかったこの体だけだ。

昔は違ったかもだけど…」


そこには、カラスとの間に虚空が広がっていた






「…ここを利用してお前に会いに来たのは

これからのことを話そうとしたからだ。」


カラスは、気まずいのが嫌になったのか

用を済ませようとしている


「これからのこと?」


「黒魔術師がさっき"最弱代表"とか

言ってなかったか?

これからは、一般代表という名の最弱代表として

"却我世界大会"に出てもらう」


「……」


世界大会、皆知っている有名な大会だ

文字通り全種族の代表達が参加する

世界最強を決める武闘会だ


その世界大会の代表の決め方は

種族毎に違う



「人類の代表は、幾つかに分類されるんだったな

その中に、表向きは一般代表ということにし

弱い人間が推薦される"最弱代表"か…

その名の通り、負けるのが仕事なんだな」


力は何の修行もしていない一般人程度の

俺が選ばれたということは

死んでも構わない…のだろう


そんなことをカラスの口から聞きたくないので

悔しさを紛らわせ

今置かれている状況を、必死で察しる




ここで、分類された代表枠の中で

特に重要な"二強"と言われるものと

俺がなったものの三種類の代表を言おう







――剣という"力の結晶"を

――己という"真の強者"が

輝く灯火を手にして

世界を照らす光となる者


それが……

"剣士代表"《アンリミテッドブレイダー》



俺は、この灯火を手にして

人を笑顔にしたかったんだがなぁ…


今度の代表の二つ名は確か…

"不可能の緑奏者"







――天をも動かすその色は"天動の色"

――全ての最強を過去とする"魔王の力"


この世という篝火に火を灯し

暖かい南風を吹かせる者


それが……

"魔術師代表"《オルタナティブシャイン》



あの黒魔術師がそうだ


奴は、先週の魔術師代表決定戦にて

前魔術師代表で未来の総大将と言われた天才少女を

その天をも動かす色撃で降伏させ

代表になってしまった




そして、俺がなった"一般代表"


そんな奴らの中から

推薦された者が選ばれる代表だが

人々からは、"最弱代表"とまで言われる始末だ


それぐらい弱い人間が選ばれるということは

陰謀や計画などの何かがあると踏んだ






代表の説明をし、冷静になった俺は

何故だか口角に異変を感じる


「…おい、何で笑ったんだ」




言われて気付いた笑顔が

どんどん明確になっていく

目が細く

頬も上がっていく


そして

深層心理で考えていたことが表面に出る



ニコッ


「ありがとう、こんな俺に果実をくれて」


「…?」


「今この状況を、俺はこう考えている

ここで世界大会に出場するという"果実"が出た

これは、俺にしか食べれない物だ

そして…それは……」




間を空けた

どんなに耳を塞いでも、聞けるように




「"世界で1番美味しい食べ物"だ」



「!?」



身の丈に合わない大物の服を着てしまった

そんな気分だ


だけど、そんな時に限って

気分が良い

なぜだろうか




ここまでの全てを聞いて

俺のやることは決まった


最弱と言われたが

それでも代表らしく、"世界大会優勝"を目指そう


そして、優勝を目指しながら

"世界大会の裏に何があるのか"を知ろう


何か裏が無ければ最弱代表などと言う

ふざけたものは無い


考えがまとまった所で

話に戻るとしよう







「…たく、小物の癖に言うことは大物だな」


そうか、なぜ気分が良いのかは

別に何もやっていないが

妙な達成感を感じているからか


よーし!

と、謎の勝ち誇った気持ちになった


「…ぬなよ」


「?」


「何も言ってねぇよ、バーカ」


そんな気持ちでうつつを抜かしていた

何か言ってたのだろうか






そんなことを考えている時だった



……!?


暫くすると、自分の体に異変があるのに気付く


「これは…光だな

だが、ただの光じゃないな

閃光…?」


カラスも異変を感じ取ったのか

それが何なのか探ろうとしている


その異変は尋常じゃない

そう考え、俺は気を集中した


「…高速で移動している

そうだ、影!」


俺は襲われた時

影を踏まれて体が動かなくなった

奴の色撃は"影"に関係があると仮定しよう


そして

その影さえ消せれば俺の体も動くと考えれば…


覚醒は近い!


「よし…一旦ここは現実に戻るとしようか

ただ、困った時はいつでもおいらを

呼んでくれ。

相談ぐらいは聞いてやるよ」


カラスも察したのか

話の続きは次の機会にすることにした


でも、俺はなぜか胸騒ぎを感じていた


そして、ここからでも分かるぐらい

強力な力を感じる


しかし、影が消えて奴の支配を逃れた俺は

好都合と思い、起きることにした


「このカラスが最後に

直々にヒントを教えてやる。

黒魔術師はあぁ見えて悪い奴じゃねぇんだ

俺も力になる。

だからお前も、あいつの力になってくれ」


そう言い放ったカラスが、もう透けて見える

夜が明ける

太陽の日を浴び

新しい風に吹かれる時だ


俺はそっと目を閉じた


ちょっと良い夢を見たな

また、見れると良いな




おやすみなさい……














夕焼け小焼けの黄昏時

今日も僕は仕事をする


どんな汚れた事であっても

何も知らないふりをしよう


真の強者は語らない


大岩の様な硬い意志で

大海のような広大な心で


俺はただ

一点を見つめていた




「…」


「…黙っていても何も始まらない

さっさと始めてしまおう、黒魔術師」



カモミールの青年を肩に乗せ

興味、関心、出来心

その全てを愛しながら




…また一つ命を刈り取ろう

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