Color world

あか

色の世界と黒の魔術師

色の世界と黒い魔術師





ドォォォォン!! ガーーーン!!


――遂に始まってしまった

爆発音と破壊音がこの世を覆う


"人魔大戦"の始まりだ


今思えば、俺という存在さえなければ

こんなことにはならなかっただろう

後悔が脳を焼かせる


俺はカガミ バン

身長173 体重普通 特徴はない。

冴えない奴と覚えてもらえれば。


行く準備は整いつつあるが

覚悟がまだ出来ていない

再びこれを決める為に、過去を思い出すことにした


最初はそう…黒魔術師と出会った時だったか……








キィン!カン!キィィン!


渡る

渡る

渡る

金属音が響き渡る

まるでそれは、カモメが海を渡って来たかのように

遠くへ、渡る


「はぁ、はぁ、はぁ…」


「へへっ、その程度かよ」


倦怠感を隠しきれていない方が俺 カガミ バン

ここの地域では、連戦連敗で有名だ


戦いの中余裕を見せている方は

見た目的に20後半ぐらいのおじさんだ


なんで戦っているって?

生活費が足りないから、相手の了承を得て

お金をかけて戦っている


戦況はというと…完全に相手のペースだ

相手は臆さず攻めてくる

きっと戦い慣れているんだろう


カン キン ゴォン


鉄と鉄 剣と剣が交差する

俺は相手の弱点を調べる為に防御に徹した


……

剣は細長い 刀ぐらいと言ったところか

高めの攻撃が多い

低めの攻撃を積極的にすれば

あるいは勝てるかも知れない


「フッ…」


笑った

しかし、笑ったのは自分ではなく相手だった


「防御しすぎは悪手だぜ?」


カキィィィン!!


「あ…」


防御の癖を読まれた

というより、こうなる様誘導された…?

空中に舞う剣が一つ

太陽の光を反射している

もう一つの太陽が出来たみたいだ


「…!」


光が世界を包んだ…?驚くほど目の前が白くなった


――だが違った

太陽の光が反射して瞳に届いたのだ

この一瞬の隙が相手の勝機となる


「ここだな」


相手は余裕そうな顔をして、剣を地面に突き立てた

いや、地面というより雑草…まさか、能力か!?


「生きとし生ける緑達よ!」


サァァァ…


歌う 唄う 謳う

風が陽気な声で歌っている

それは、妖精の歌声にも聴こえる


この状況で俺は察した


――くる


「…うっ!」


やられる前に攻めようとしたが

一つも隙がない姿に見えてしまったのだ


それはなぜだろうか

周囲の雰囲気が、緑が

相手に味方をしていると、見えたからだ


彼は右手を前に上げ、左手は右手首を掴み

突き立てた剣に想いをぶつけるように

力を見せつける


緑纏う聖なる剣

「グリーンソードぉ!」


彼は地面にある雑草を剣にした

それは剣というより無骨な大剣だった


強い


武器種を変えたから

さっきの調べた事が無駄になった

それに、彼は力技で勝とうとしている

実力差がある中、それが一番効く


ここで少し能力のことについて説明しよう

この世界は色に選ばれた者が

その力を使うことができる

二つ以上には絶対に選ばれない


色を使うと言っても

その色の全てを使える訳ではない

この人の場合

緑色の草や木の攻撃が得意なのだろう

俺は…まだその力は覚醒していない


――つまり、絶対に勝てない


考えるより先に体が動いた

と言っても、逃げているだけだ

こんなカッコいい台詞には似合わないだろう


スタタタッ

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


少し実況してみるか


逃げた逃げた!しかしこれは勇者の逃げ!

決して無理はするなという

母からの忠言が効いたか!

3馬身、4馬身と差をつけていく!


「おーーーーい!!」


呼び止める声が聞こえる

残念だが、今の俺はそれを聞く程冷静ではない

俺は振り返らずに、曲がり角を曲がった


「…あいつ、色撃(しょくげき)使えないのか?

なんだよ、それならそうと言えば合わせたのに。」


男はそう言いながら、賭け金をそっと仕舞う


「筋は悪くないんだが、逃げるって…

自分を低く見過ぎじゃないか?

今度会ったら、剣の駆け引きを教えるついでに

酒の一杯でも奢ってやるか」


教師の様な気持ちで発したその言葉は

あまりにも真っ直ぐすぎた

曲がり角を行った

剣を持たない剣士には、もう届かない







……あれからどれぐらい逃げたのだろうか

すっかり夕方だ

「……なんでだ、皆当たり前のように色を使って、

そんな奇跡のようなことが、なんで出来る…」


太陽がなかなか落ちない

今日も負けた

明日も、きっと負けるだろう

そもそもなぜ戦ってお金を稼ごうとしたのか


楽だから?違う

憧れたから?違う


「……誰かにすごいと思ってほしかったから、か」


昔から何か突出したものはない

何もかも普通

誰もが努力すれば辿り着けそうな境地にしか至らない


そんな、普通だ


――だけど、昔に見た"世界大会"が忘れられない

別に憧れた訳じゃないが、すごいと思ったんだ

その時に自分に足りないものは

輝きだったんだと気づいた

飛び交う歓声、練り上げられた力と技

そう、必要なのはこれなのだ


「……まだまだ、これからだな」


そう思い視線を送った所には

カモミールが咲いていた


クシャッ


「!!」


「本当にそう思うかい?」


カモミールを踏んでいる

俺は自分ではないのに同情したのか

少し苛立っている


視線を上にすると

黒いフードを被った男が立っていた

身長は…畜生、高ぇじゃないか


「あ、あなたは?」


格好といい言動といい、怪しすぎる

俺は警戒レベルを最大にした



本当にそう思うのかって…

思考を読んだのか?

もしそうなら圧倒的強者だ

逃げるという選択肢すらないだろう


「まずは自己紹介だな、僕のことは"黒魔術師"って

呼んでくれ」


「黒魔術師…」


聞いたことがある

確か、今度の世界大会に出場する

魔術師代表の二つ名…名前は…

いや、そんなことを考えている場合じゃない

ここは一つ質問してみよう


「なんで魔術師代表がここに」


彼は反射的に答えた


「僕をそれなりに知ってるんだな

素直に答えよう

実を言うと代表メンバーがあと1人

足りないんだ。僕はそれを埋めに来た」


代表が1人足りない?でもそれを決める全国大会は

もう終わったはず…

そんな疑問は一瞬でどうでも良くなった


カァー カァー

カラスが泣いている


「あぁそうさ、だが、必ずそうなっている」


サーー……

風が服をすり抜ける


思えば最初、黒魔術師がカモミールを踏んだ時から

決まった運命なのだろう


この時、おじさんから逃げ

こいつと出会ったという因果が

旋律を奏で

世界の裏側まで轟くようになるとは

思いもしないだろう


「何をする気、なんだ」


防衛本能が叫びたがっている

体が恐怖で震えている

世界が逃げろと伝えている

どうかそれを脳じゃなく脊髄だけに伝えて

俺の体を動かしてくれ


スタ スタ スタ

奴が近づいてくる

自然な足取りで、俺の影の頭を

カモミールと同様に踏みつけた


その時、驚いたんだ


(体が…!)


びくともしなかったんだ

奴はもう目の前にいる

今更逃げようとしても無駄か


一息溜めて、奴はこう言い放った


「…おめでとう、これから君が"最弱代表"だ」




考える暇はなかった

世界を黒く染めるその黒炎は

俺の体を燃やして灰にした

常軌を逸した闇の炎は

一瞬だがカラスに見えた


それが分かっただけ十分だと満足した俺は

少し早いが、眠りにつくとしよう……

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