子供を思いあらずんば人にあらず





「ラース……ドーヴェルぅぅぅ!!?」


俺でも知っている


800年前、ラース騎士連邦国を建国したという

伝説の英雄……!!!


いや、まだわからない


こいつはとんだペテン師かもしれない


ここは疑い深く……慎重に行動するか……




「待て待て!!まだわからねぇ。

それが本当だと言うなら、

何かショーメー出来る物を出せ!!」


「うーん……あ、これぼくが発案したんだけど……

このお金って、今もある?」


「……教科書で見たやつだとぉ!!?」


「あぁ、あと要らないと思うけど王冠いる?」


「それも教科書で見たやつぅ!!??」


「この黄金の鞘の剣はあげないよ」


シャキィィィン!!!


「光剣エタンドルぅぅぅ」




「……これでぼくがラースだって分かった?」


「あ、あぁ……し、仕方ねぇ、信じてや、やろう」


「ありがとう。」


「それで……何の話だったかしら?」


カレンが思い出そうと言う


「輪廻の輪の説明……覚えてる?」


「思い出した!!」


「うん。それじゃ話を戻そうか。


この魔法という概念のせいで、

輪廻の輪が狂っていってると説明したよね

それなら、この輪廻の輪が壊れると何が起こるか……」


ゴクリ


「世界を維持する力がなくなり、

ビッグバンが起こります。

宇宙爆発、やばくね。」


「800年前にも「やばい」って言葉あったんだ……」


「……色々と言ったが、ぼくの目的は……

この世界の消滅を防ぎたいっていうこと

その為に、この輪廻の輪を正常の状態に戻したい。


ならどうするか、だけど……」


………………


「……この世界全体を、

"この世界が作られた時間まで時を戻す"。

過去に戻るのも異世界転移と言うのなら……

"全世界転移"だ!!!」


ええええええええ!!!




……………………


ザッザッ


誰かがどこかへ行く足音がする


過半数がラース・ドーヴェルについていったんだろう


圧倒的なカリスマだ


確かに、あの歴史に残る騎士王についていきたいのは

分かる。俺も、ビーストの一件が無ければ

そっちについていったかもしれねぇ。


面白そうだなぁ


でも、俺にもやるべきことがある


やる。やるんだ。

俺の手で、ビーストを。


こうして、例年より数が少なくなった俺らの代は

騎士団長の元へと編入届けを出すのであった……




ゴォン!!ゴォン!!ゴォン!!


やっべ!!


「……入れ。」


騎士団長の声がする


力を入れすぎちまった


ちょっと木の扉が壊れてかけちまってる


俺の声も扉越しに聞こえたのかな


まぁいいや、とりあえず入ろう……


ガチャ


「し、失礼しまーす……」


「ハッハッハッ、元気が良くていいね。」




「さて……ようこそ、ドーヴェル騎士団へ。」


(これが騎士団長……ハンネバル、ドーヴェル!!

うお〜、実物見るの初めてだ〜!!)


「……はぁぁぁ……」


騎士団長がうつむきながら深いため息を出す


「すっげぇなげぇため息……!?」


「あぁ……まさか祖先に

本当なら、私の団に入る隊員を取られてしまうとは…」


「まぁまぁ……その分、俺が頑張ってみせます!!」


「うむぅ……」




「色々とあったが……これが編入届けだ。

どこか希望する騎士群はあるか?」


「あー……とりあえず、保留でいいですか!!」


「それはなぜ?」


「いや……俺、第七騎士群の隊長の誘いで

騎士になろうと思ったんだけど、

第七騎士群がある場所は……山と言うより

海だから……

ビーストはあんま出てこないだろうなーって。」


「騎士団に入ったのはビースト目当てか。」


「……復讐、するつもりだ。」


「……君がビーストと戦う時には

もう全滅していると思うが……?」


「その時はその時だ。

俺……予感がすんだよ、ビーストだけじゃない……

それよりも、もっともっと強力な敵が

俺たちを阻むって……


その時、俺が戦力になれるように

騎士団で経験を積んでおきてぇんだ!!」


「……わかった、一旦保留とする。

新兵決定戦……見事だった。」


「!! あぁ!!」




「……」


「……? アーフィン君、どうしたのかね?」


「……あのラース・ドーヴェルが来た時、言っていた


「ビーストが現れたのは、

世界が滅亡する理由の"要因の一つ"」

……ということは、他にも要因があるってことだ。


それが何なのかは、話に夢中で聞けなかったけどよ、

ビーストが関わっている以上、

目を背けるわけにはいかない……

聞かせてくれないか?

魔法のこと、もっと詳しく。」


「……」


「おめぇは知ってるだろ?

何たって、騎士団長なんだからな。」


「……あぁ。そうだとも。私は何でも知っている。

魔法のことでも、何でも……ね。」


「……へっ。きみが悪ぃなぁ……」




「……魔法は、水や雷、火や風

全ての気象現象を、その人のイメージで

操ることが出来る。


しかしこの力は、人が操るには

とてもじゃないが、無理なことだった。

魔法の力を操るには、代償があったのだ。」


「……!?」


「これは古代の話だが……


ある者は耳が聞こえなくなったり、

ある者は手に力が入らなくなったり、

ある者は片目が見えなくなったり……


効果はさまざまだが、必ず副作用があったのだ。」


「……今の俺たちが魔法を使っても

副作用が出ないのは何でだ?」


「……それは………………」


「……」




……………………


暫くの間、無言が続く


団長の顔は、俺でもどんなことを考えているのか分かる


罪悪感を感じている顔だ


だけど、俺には聞く権利がある


俺は……それを聞くことにした




「……俺はな、これでも壮絶な人生を送ってきたんだ。


あの集落のこと知ってるか?

俺はそこの生き残りで、

自警団では「はやてのフィン」って呼ばれてたんだ。


そりゃもう、色々なことがあったよ。


山賊が襲ってきたり、

恋人のパンツを拾ったり……これは関係ねぇか。

とにかく、数えきれねぇほど思い出があったんだ。


今はもう、何もかも無くなっちまったけど……

そんな俺はもう、無くなるもんなんてねぇよ。


"それ"を聞いても、俺は冥土の土産が一つ出来ただけだ

だから……俺だけに聞かせてくれねぇか?

俺達が死んだら、その秘密を

皆にバラして、あの世で笑いあおうぜ……!!」


「アーフィン……」




「そう、だな……その様子だと、

君は何事にも動じない男だと見た。

どうやら、私が本当のことを言っても良さそうだ……」


「……あぁ。覚悟はとっくの昔にできてる。

聞かせてくれ、本当のことを。」


「……君達は、ジェネシスという

科学研究所は知っているか?」


「いや……」


「そうだろうとも。

そこはなんせ、裏組織なものでね。


そこはいわゆる、キメラを作っていた。」


「キメラ……!?」


「あぁ。そこは動物と人間を組み合わせ

強力な生物兵器を作りあげている。

今回のビーストは、そこから流れ出てきた

生物兵器のうちの一つだよ。」


「なんだって!!??

実質、そこの組織にやられたもんじゃねぇか……」


「あぁそうだ。


表に出ない情報だが、

年に数回、そこから我が国に

力試しなのか、数体キメラが送られてくる。


そしてその数体のキメラに、

騎士団は毎回、数十人と死者を出している……」


「……それで、どうしたんだ?」


「私達騎士団も……それに対抗しようと、

ある"プロジェクト"を発案した。


……人造人間、"ホムンクルスの量産"だよ。」


「ホムン……クルス!!?」


「……我が国の闇だよ。

私たちは、そのビーストに対抗出来る程の

身体能力と、魔法を操れる力を持った

人造人間の量産を計画した。」


「その結果……どうなったんだ?」


「……成功。大成功だよ。

このホムンクルスは、今騎士団にいっぱいいる。

大半はそうなんじゃないのかな……」


「……そう、なのか……!?」


「……君も、そのホムンクルスの一人だよ。」


「そうか。」


「おや、あまり驚かないんだね……?」


「……? だって、こうやって話してくれたじゃねぇか

他のやつらは驚くかもしれねぇが、

俺はむしろ、こんな贅沢な体にしてくれたことを

感謝するぜ?」


「……!!」


ポロッ……


「えぇ!?何泣いてんだよ……!?」


「いや……ははは、年甲斐もなく涙が出てしまったか

……私は、ずっと後悔していたんだ。

人間じゃないと知れば、君達は

私たちを、きっと恨むだろうと……


……その感情も、そうなるよう作られた物だ……

だけど、私はそんな君達を

0歳の頃から、一人も見逃さずに

ずっと見てきたんだよ……


この涙は異常な物だと知っている……けど、

私にとっては、そんな君達が大きくなって、

こうやって立派な人間になってくれたんだ

嬉しくない訳がない……」


「そうか……団長にとって、

俺は良い息子だったか?」


「……あぁ、本当に、出来すぎた子供だよ……」

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